希少なオメガの王妃は、王に愛されない。

@cimile07

開幕


 「王妃ジヴリール、貴公を殺人未遂及びオメガ性詐称罪で有罪とする」




法廷内に裁判長の厳格な言葉が響き渡り、静寂に包まれていた廷内は、聴衆人達の野次や歓声で騒めき立つ。

異様な高揚感に満ち溢れるその中で、被告席で華奢な身体を震わせるジヴリールは、愕然としながら裁判長へ向けた目を大きく見開いた。


「ゆう……ざ、い…?」


後ろで緩く編み込まれた美しい青灰色の髪はすっかり乱れていて、裁判の間に懸命に無実を訴え、声を上げ続けていたジヴリールはもはや疲弊しきっていた。

だが。

無情に下された有罪判決に、裁判官はおろか、傍聴人達の誰もが納得の声を上げた。


ただの男の身体でありながら、自らを希少な男型オメガと偽って養父母に取り入り、王を欺き、更には崇高なる竜神信仰を冒涜した背叛者。

王や民衆の希望の証だったオメガである一人の女性を、嫉妬心から亡き者にせんと企てた醜悪な犯罪人。


グレイシア王国の王妃であるジヴリールに掛けられた殺人未遂とオメガ性詐称の罪は大きく、歴史的な大事件は国内に強烈な衝撃を与えた。

希少な男型オメガとして敬い大切にしていた存在が、あろう事か神に背く犯罪者であった。


裏切られた。と人々はジヴリールへ憎悪や侮蔑の感情を向け、この法廷でも聴取はおろか裁判人の誰もが王妃の無実の訴えを嘲笑をし、侮蔑の言葉を投げ掛けた。


それでもなお、罪状が読み上げる裁判官へジヴリールは精一杯に、なおも声を張り上げた。


「違うんです!私は何もしていません……!わ、私はただお見舞いの林檎を贈っただけで……」


「何が違う?毒の入ったその林檎は被告が自分の庭で育て収穫した物。収穫後、林檎には被告以外誰も触れてはおらず、しかも林檎を剥いて被害者であるルデア様に食べさせたのは被告本人だという。これ以上に明確な事件が他にあるだろうか」


冷徹な裁判長の言葉に、陪審員達から同意の声がいくつも挙がり、廷内はさらに騒めく。


「違うんです……私は、私はただ林檎を……」


風邪を引いて寝込んでいたルデア=ブランシュ嬢が林檎を食べたいと言うから剥いて出した。

ただそれだけだったのに……と、突然苦しみ始めたルデア嬢の血の気の無い顔が脳裏に甦り、思わず口元を両手で覆った。


幸い死に至るような大事にはならず、命に別状無くルデア嬢の体調は回復に向かっているが、人々の怒りはそれで収まるはずも無く、ジヴリールへの罵詈雑言、非難の勢いはどんどん増していく一方だった。


──自身を希少な男型オメガと偽り、王家や民衆を欺いた罪人に、悪魔に裁きを。


──美しく純真なオメガの娘を陥れ、殺害を企てた邪悪なる者に厳粛な断罪を。


──王家に男色の醜聞を晒した恥知らずには死を、報いを。


「わ、私はオメガです……子供はまだ出来て無いけれど…でも、本当にオメガなんです…!」


「見苦しいぞ。被告がオメガだと云うならば何故子が授からぬ?同じオメガである被害者は既にその高貴なる務めを果たされていると云うのに」


「そ、それは……」


四方から聞こえる人々の、軽蔑と憎悪と好奇に満ちた言葉を一身に浴びながら、ジヴリールは、裁判長と並ぶ最高貴賓席に物言わず鎮座する男へ嘆願するような視線を向けた。


黒髪を後ろに撫で付け、華美な礼服を身に纏った男が座するそこは王国の最高権威であり、総帥たる王の席で、伴侶である王妃の有罪に微動だしない、王ミカールは、粛々と下される判決に異議の声一つ挙げない。


「陛下……ミカール様!信じて下さい……!ルデアさんに毒を盛ったのは、私じゃないんです!」


国王本人に無実の訴えをするが、ミカールがそれに応える事は無かった。

妃であるジヴリールに下された有罪判決に対して何も感じるところが無いのか。或いは、寵愛していた愛人を殺めようとした王妃に一切の情も見せるつもりが無いのか。

何の感情も見出せないその目は、常日頃のものと変わらず、有罪判決が下ったこの瞬間にも、涼しげな表情を何一つ崩す事無く、何処までも冷たい紫電の瞳でもってジヴリールを静かに見下ろしていた。


ああ……陛下。どうして何も仰って下さらないの。

せめて話を聞いて下されば、きっと私が無実だとみんな納得するのに。

どうして。


沈黙を続けるミカールに、ジヴリールは絶望と失望の眼差しを向ける。


「本来であれば即座に極刑判決を下すところだが、被告は仮にも一国の公妃。このグレイシアの根幹を揺るがすこの事件を安易な判断で締める訳にもいくまい。よって、被告への刑罰は追って下す」


裁判長の言葉にジヴリールの顔に恐怖と動揺の色が浮かぶ。

この国では殺人は死刑に値する重罪。未遂といえど、王や民衆から愛されている彼女を手に掛けようとしたのなら、同じくらい罪が重くなる。

ましてオメガであると偽り教会や王家を欺いた罪は重く、さらに教会から禁忌とされている同性愛行為を犯した罰は殺人よりも重い。

ジヴリールは自分に告げられた罪状から、どれほどの刑罰が降るのかを想像し、より一層声を張り上げた。


「信じてください!私は無実です!」


誰に言ったところで聞き入れる者などいるはずも無く、王妃の悲痛な叫びは周囲から飛ばされる野次によって掻き消されていく。


「静粛に!早く被告人を連れ出すのだ!」


木槌の鳴らす音と裁判長の怒号が法廷に響く。

ジヴリールは、刑吏二人に髪や腕を引っ掴まれて、強引に被告席から引き摺り下ろされ、無理やり歩かされる。

手枷から繋がる鎖を引かれ、老いて鈍重な牛馬を無理やり引き回すかのように歩かされるかつての王妃の姿に、聴衆達の歓声はますます湧き立った。此処にいる者の誰もが、王妃の有罪を疑いなく受け入れている、或いは望んでいるかのように。


「陛下……っ、お願いです…どうか、私の話を聞いて下さい……!陛下!……ミカール様!!」


物言わず冷徹に自分を見つめる王に振り返り、必死に手を伸ばすが、それすらも王の心には響かないのか。

眉一つ動かさない伴侶の無慈悲にジヴリールは一切の希望を諦め、虚空をただ見つめた。












「入れ」


「……はい、」


罪人となった王妃に敬意を取り繕う必要が無くなったのか、刑吏達は無機質な声で冷たく牢の中へ突き放すと、手枷から伸びる鎖を牢の檻に繋ぎ止めた。


「陛下からのお達しがあるまでは、ここで大人しくしているように」


刑吏の厳しい声に、ジヴリールは大人しく首を縦に振った。

今更何処へ逃げるというのだろう。私には何処にも行く宛が無いのに。

そう思いながらぼんやりと部屋を見渡し、愛用している魔法の鏡が壁に立て掛けられているのに気づき、小さく息を溢した。

牢獄とは言え、王妃は他の囚人よりは待遇が良いのか。ベッドやテーブル、簡易的な手洗い場まで用意されていて、当面はここで生活を強いられても大して困る事は無さそうだった。


「ルデア様が死ななくて良かったですね。もし殺人罪だったら、あのまま処刑されていましたよ?」


嘲るような軽蔑の籠った言葉と同時に、刑吏は鍵を施錠し、冷笑を残して立ち去った。

嘲笑と靴音が遠ざかって行くのを待って、ジヴリールは窒息しそうなほどに詰まらせていた息を溢した。


ルデアさんが死ななくて、命に別状が無さそうで本当に良かった。

もしも死んでしまっていたら即刻首を刎ねられていただろうし、それに……彼女が死んでしまうなんてとても辛くて耐えられなかった。


自分が贈った林檎を口にして倒れたルデア嬢の安否がずっと気懸りだったジヴリールにとって、彼女の無事はこの最悪な状況の中で唯一の朗報だった。


誰が彼女に毒なんか……私が彼女を殺す訳が無いのに。どうして誰も、陛下も信じてくれないのだろう。

王の感情の篭らない冷たく無機質な眼が脳裏に過り、ジヴリールはその場に崩れ落ちた。

陛下に少しの愛情も期待していなかったし、求める事も諦めていた。でも……まさか、申し入れの一つも聞き入れて貰えないなんて。


王に何度も無実を訴え懇願する王妃に向けられた、聴衆人達の嘲笑と非難の声が未だ耳にこびり付いて離れない。

希少な男型オメガであると偽り、親や教会を欺き、王を誑かし同性愛行為の禁忌を犯させて、挙句王が寵愛していたオメガの娘を殺そうと林檎に毒を盛った罪人。

そう言ってジヴリールを罵った彼らの中には、引き取った子供が男型オメガであると分かっているはずだろう義父の姿もあり、自分に火の粉がかかるのを恐れて義理の息子を見捨てたであろう事は、ジヴリールにも察しがついていた。


ああ……あの時、父上の言う事に逆らってでも王家を出るべきだった。

そのまま離縁されて家を追放された方が良かったのかもしれない。


オメガ性にずっと苦しめられて来た幼少の頃からの悲しい記憶が一気に甦り、思わず頭を抱えて床に蹲った。


早く子供を。それが貴方の使命です。

何故子供が出来ぬ。

貴方は希少なる男型オメガ。アルファと交わって子供が出来ないのはおかしい。


養父母や教会、王家の者や貴族、民衆の失望に満ちた声が次々と脳裏に浮かんではジヴリールの心を抉っていく。

何度となく王と契りを交わそうとしたが、オメガのフェロモンに何一つ反応せず「お前を抱く事は出来ない」と苦々しい溜息と共に身体を突き返された苦い思い出が、王の感情の読めない瞳がいつまでも記憶に焼き付いて離れない。

期待、羨望、失望、軽蔑。

次第に自分に向けられる人々の目が変わっていく事の恐怖に怯え続けていたジヴリールは、堰が外れたように嗚咽を漏らし、細い身体を丸めて絶望に打ち震えた。


「アアァァァァ……ッ、嫌…っ、やだ……!ごめんなさい、ごめんなさい……っ、許してください…!お願い、お願いします……!」


床に頭を擦り付けて何度も何度も謝罪の言葉を口にする憐れなオメガに差し伸べられる手など無くて、何処にすればいいのか分からない謝罪と弁明の言葉を、必死に目の前の鏡に向かって唱え続けた。

呪文を唱えなければ鏡はただの鏡でしかなく、狂ったように言葉を紡ぐジヴリールの声は、誰に届くでも無く冷た

い牢に響き渡る。

どれだけ泣き喚いたところで有罪判決はひっくり返らない。あとは処断されるのを待つだけ。

どうせこの声も、この惨めな姿さえ誰の目にも入らないのだから。と青灰色の長い髪が床垂れ下がり乱れるのも構わず、人目も忍ばず慟哭を上げるジヴリールはふと、我に返ったように顔を上げた。


「……かがみ、」


ポツリと呟く。膝立ちになって鏡を覗き込むと、目の前の鏡に涙でぐしゃぐしゃになった自分の顔が映り、ジヴリールは乾いた笑いを零した。


そうだ。こんなの、初めから結末なんて分かりきってたじゃない。

王妃の責務も満足に務められず、子一人すらまともに授からない出来損ないのオメガに居場所なんてある訳が無い。それでもまだ女型のオメガであったなら側室か他の貴族の愛人という生き方もあったかもしれない。

男型のオメガなど、子が作れないなら、普通の男と何ら変わらない。ヒートによる淫気のせいで常に発情している、ただの淫乱な男。

オメガで無いなら、同じ男の身体を誰が欲するのか。伴侶であった王でさえ、オメガのフェロモンもろくに出せない私の身体に、ついには「お前を抱く事は出来ない」と言った。

王や大臣を始め、王宮の人々に見捨てられるのも仕方ないのだと思う。

あの時、陛下が『白雪姫』……ルデア=ブランシュ嬢を側室に迎え入れると言った時に、妃の位も家も何もかも捨てて出奔するべきだったんだ。

ううん……そもそも子供が産めない男型オメガの私には何の価値も無かったんだ。


次から次へと後悔の念が浮かんでは胸中を黒く塗り潰していく。

そう……誰のせいでも無い。何もせず、何も言わず、ただ手をこまねいていた自分自身に罰が下っただけ。

結局自業自得なのだと思い直すと不思議なほどに冷静さを取り戻し、そっと鏡に手を伸ばして、鏡面に映る頼り無げに見つめ返す自身の顔に向かって呟いた。


「かがみよ、かがみ……この世で一番、美しい……のは…」


今更こんな問い掛けをするのも虚しくなる。

でも、鏡に魔力を与える為の呪文だから。と小さく「だあれ?」と続けると、鏡面が黄金色に輝き、優しい声がゆっくりと応えた。


『それは王妃様、貴方様で御座います』


いつもと変わらぬ応えに、口元が自然と緩み、止まっていた涙がポロポロと零れ落ちる。

鏡面に頬を擦り寄せて嗚咽を上げる私の異変を、鏡なりに感じ取ったのか、鏡に微かな揺らぎが映った。


「……私、王妃なんかじゃない。ずっとそう」


『王妃様……』


「王妃なんて呼ばないで──呼ばれるだけ虚しくなる……っ、」


感情を吐き出すように声を上げるジヴリールに、鏡は何も言葉を返さなかった。

どんな慰めの言葉を掛けられたところで、今のジヴリールの心には何も響くまい。と理解していているのか、鏡は嗚咽を上げて泣き噦るジヴリールの話に静かに耳を傾けた。

精霊の魔力が込められているというこの鏡を贈られてから十年余り。

辛い時にはいつだって自分の話を聞いて、寄り添ってくれた鏡の変わらぬ優しい声は、傷つき瓦解したジヴリールの心を僅かながら癒し、言葉を発するだけの冷静さと安寧を与えた。

いつもの、優しく包み込むような温かな声に、自然と涙がポロポロと零れ落ちた。


「ルデアさんに贈った林檎に毒が盛られて……でも、私は無実で……なのに、誰も…信じて、くれなくて。私はオメガじゃないと……国を欺き陥れた罪人だと……陛下は、ミカール様は何も仰っては下さらなくて…」


『ジヴリール……』


「わ、私が欠陥品だから……子供が産めない、何も出来ない役立たずのオメガだから……きっと陛下も私の事が疎ましくなって……だから…っ、話を聞いてもくれなくて…!」


『ああ……ジヴリール。お前が欠陥品であるものか』


自分を慰めるいつになく力強い声に、ジヴリールは鏡面に額を軽く押し当てた。

鏡に映る蒼い瞳が弱々しく自分を見つめ返すのが滑稽で、無意識に表情が歪んだ。


『私の愛するジヴリール……お前がオメガで無かろうと、私はお前の味方だ』


「ありがとう……貴方だけは、ずっと変わらずにいてくれる……」


そう言って力無く笑い、頬を鏡面に擦り付ける。相手は声だけの実態を持たない存在だが、触れた肌から鏡の温もりを感じる気がした。嗚咽を上げるその度に、名前を呼び掛けては慰めてくれる優しい声が静かに暗闇に響き渡る。


「勝手に期待されて、勝手に失望される。要らなくなったら簡単に捨てられる。オメガだからって何かを勝手に求める人も、私を捨てた陛下も、みんな、みんな……大嫌い…っ、」


『……ジヴリール』


「……でも。何も出来ない私自身が一番嫌い」


ひとしきり涙を流し終えて泣き叫ぶ気力も無くなったのか、やがてジヴリールはポツリポツリと呟くように問わず語りに、鏡に映る自分に向かって語り始めた。








竜神より風の祝福を受け、不死鳥より燃える炎の如き愛を与えられ、水神より母なる大海の加護を賜り、この下界へ神々より遣わされた美しき聖なるオメガ。


アルファの苦しみに満ちた心を、迷える魂を救う為、神に選ばれし英雄の血を遺す為に創られたオメガは、下界の英雄たるアルファの獣の如き猛々しい激情を、大いなる海の如き抱擁で包み込み、そして交わり、命を生み出した。

無性のその肉体から生まれた最初の子供は聖オメガの神性を継ぐ無性の子供と、英雄アルファの強さを色濃く継いだ子供の双子だった。


それから神々が現し身を隠されて、幾星霜の時が経った────


英雄アルファの血は永い年月で、血が褪せるどころか、代々英雄の強き血と魔力を色濃く子孫へと継いでいた。

一方で、永い時の中でその血が次第に風化しつつあった女型オメガとは対象的に、男型オメガはその血に流れる神性も大いなる使命も、神より授かった神秘の無性も何一つも損なう事無く、その血を代々遺していった。

そんな、聖オメガの血を強く受け継ぎ、守り続けてきた男型オメガと今なお英雄の血は褪せぬアルファが血の契りを交わしたならば、その絆は永劫に破れない……と云われている。

故に、男型オメガは、アルファにとって唯一の救い、無二の希望である。


だが。

永い年月で次第に歴史から消えていった、彼ら『男型オメガ』の存在はあまりに希少で、生涯の内に目にする事が出来た者は非常に幸運であった。

そして。その産声を聴いた家には、彼らが根付く国には、永遠の幸福が約束される……



教会で司教様から、家では家庭教師や養父母から何度も聞かされた説話。


この世界でのオメガの成り立ち、男型オメガの希少な存在の価値について聞かされる度に、私をオメガとしてこの世に生み出したお父様やお母様に、神様に、恨み言の一つでも言いたくなった。


オメガは全能の存在じゃない。

神から遣わされし聖なる存在なんて嘘。

アルファの苦しみを癒す事も、救う事も出来ない。

番になったからと言って、別にそれでアルファが救われる訳でも無い。

ただ、アルファと交わり、その血を色濃く継いだ子供が産めるだけ。


──それ以外は何も出来ないのに。


ただ男型オメガというだけで好奇の目で見られ、勝手に期待されて求められて、思っていたような存在では無かったと勝手に落胆される。

失望されて、泣いて謝る事しか出来ない、哀れで惨めな存在。

オメガなんて、子供が産めなかったらただの弱い、何の価値も無い人間でしかないのに。

アルファにとっての救いがオメガとの契りなら、オメガにとっての救いはアルファに愛される事?

わからない。

どうして、オメガはアルファに愛されるのだと、オメガはアルファの救いだなんて、言いきれるの。

もしかしたら。アルファに愛されず、唯一の務めすらまともに出来ない出来損ないのオメガがいるかもしれないのに。

もしかしたら。聖なるオメガ様にはとてもなれない、弱くて、馬鹿な、ただの人間なのかもしれないのに。


何も出来ない自分の無力さを嘆いて、周りに求められる「聖なるオメガ」像と本当の自分とのギャップに苦しんで、泣いて、ボロボロになるだけ。


物心がついた頃には、誰もが私を、希少な男型オメガと、聖なるオメガと呼んだ。

誰も私を、ただの『ジヴリール』としては見なかった。


そう。あの人以外は────









聖なるオメガの子らよ。


混沌たる地に咆哮し、彷徨えるアルファの魂を、

汝のその愛で救い給え。


アルファとオメガ、ふたつの魂がひとつとなる時、

それは天上の契約となりて、永遠のよすがとならん。


聖なるオメガよ、英雄の血を継ぎしアルファよ。

汝らこそ、神に愛されし天の使い。



いまこそ、救済の時は満ちたり。






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