危うし闇落ちブラック

黒猫キダネ

そりゃ辞めるわ


 1人の男が、真剣な眼差しで語り出す。

 「……というわけで、ヒーローブラックだ。俺をお前たちの仲間にしてくれ!!もうあいつらとは一緒にやっていける気がしないんだ!俺は基地の場所から合体ロボの弱点まで知っている!頼む……大怪人ボスラ!!」

 ボスラと呼ばれた男は黙って彼の言葉を受け止めていた。数瞬の思案、そしてきっぱりと。

 

 「いやダメに決まってるでしょ。え、何ヒーロー裏切るの君?」

泣く子も黙る、悪の組織の親玉は深いため息をついた。

 

 「その通りだ。ズブズブな関係のレッドとピンクに、ねちっこく嫌味を言い続けるブルー、ピンクを寝取られて発狂しているグリーン!汚職に塗れた上部組織!俺はもうあんな連中まっぴらだ!!」

「ええ……長年付き合ってるけど、お前らそんな環境で正義の味方やってんの……?と言うか、その情報だけで社会的に抹殺できるんじゃないのか」

 歯を食いしばり、血走った目で机を叩くブラック。

 突然の台パンにちょっとビクっとするボスラ。

「いや!俺はあいつらを精神的に追い詰めるだけじゃ気が済まない!!物理的にブチのめすまで俺の怒りは止まらない!!」

「確か君、シニカルな冷笑系戦士って売り文句じゃなかった?」

「そうだよ!あんのクソ人事、俺をレッドにしてやるっていうから入ってやったのに騙しやがった!バカ一本気の熱血戦士を目指してたんだよ!!今日から俺は闇墜ちブラックだ!!」

「反転アンチよりめんどくさいぞコイツ!!」


 ――ややあって

「志望動機は分かりました、ハイ。じゃあ受かったとしてテレビの前のチビッ子はどうすんのよ。戦隊ごっこでブラック役やる子、絶対気まずくなるじゃん。」

「クソガキなんぞ知ったことか!!」

「駄目だこいつ。これはこれで返しちゃいけないやつだ」

 誰よりも悪の適正を持ったヒーローの力説に、ボスラはいよいよ頭を抱えた。


「じゃあ、とりあえずアルバイト採用ことで下っ端からのスタートになるけど大丈夫?」

「下っ端からだと?それではあいつらと直接対決できないではないか!「今週の怪人」を飾るような幹部ポジションに据えてくれ!頼む!!」

「ウチだって寄り合い所帯なのよ。はぐれ者達を平等に養っていかないといけないから、『今週の怪人』枠は完全固定シフトで後3か月は予定埋まってるのよ。」

「クソッ!なんてことだ!……いや待て、今アルバイトと言ったか?ここでは給料が発生するのか?」

「当たり前じゃない。今時無賃で働かせていたら、部下に殺されるよ」

「ウチは完全ボランティアだ!!」

「ええ……じゃあ、この前やっていたヒーローファンド、あれは還元されてないの?」

「ロボの維持費とか活動基金にするんだとよ!残りは上の懐だろきっと!しかしこれで牛丼屋のバイトからもおさらばだな!やりたいことしながら金が稼げるって最高だ!!」

「放っておいたらいつか自滅するんじゃないかな」


閑話休題――

「よし、今日からよろしく頼むぜ!ところで、お前らの仲間になったからには見た目も変えないといけないよな!闇墜ち戦士らしく角とか翼を付けようかと思うんだが、どうだ!?」

「目ェキラッキラさせながら言うセリフじゃないでしょ。てか、怪人より目立とうとしてどうすんの。君は下っ端だからね。ほら、この衣装着て。この後怪人メビウスが街でひと暴れする予定だから。とりあえずアイツの言うことに従うんだぞ」

「なんだこの地味なスーツは。まあいい、きっとアイツらを血祭りにあげてくるから首を長くして待っていろ!!!」

「どう考えてもモブ戦闘員のセリフじゃないよなあ……」

 

某所、会議室――

 「よし、お前ら。これよりブリーフィングを始める。」

 「「「はい!メビウス様!!」」」

 「とりあえず街に出てからは各戸好きに行動しろ。ただし、変身前のヒーローを見つけても決して致命傷を与えるなよ」

 「何故だ!ヤツらは任務外の時間は隙だらけだ!その気になれば簡単にブチ殺せるだろ!!」

 「そんなことをしたら番組の空気が死に絶えるだろ」

 「んなこと知るか!俺たちの敵は誰であろうとブッ殺すだけだ!」

 呆れる怪人を置いて口角泡を飛ばす戦闘員ひとり。

 「それはそれでテレビからの副収入が入ってこなくなるから困るんだよ。なんだお前、新入りか?随分バカっぽいやつが入ってきたな……」

 「ゴホン。まあいい、とりあえずは既定路線で頼む。次に、今回の作戦だが、ヒーロー驚愕の事実を暴くことで、奴らの動揺を誘う方向でいこうと思う。誰か、良いネタを仕入れたものはいないか?」

 「ハイ!!!」

 「またお前か、新入り。なんだ、言ってみろ」

 「あいつらの合体ロボはレッドとピンクの愛の巣だぜ!!夜隠れてイチャイチャやってやがる!痕跡を見つけたグリーンは基本、一週間は正気じゃないぜ!!」

 「えっ、そんなこと陰でやってんのあいつら。熱血レッドと純情ピンクはどこいったの」

 「最近ではピンクが上部組織のおっさん達ともよろしくやってんじゃないかって噂だ!すげえスキャンダルだろ!」

 「いや確かにヤバい話だけどそんな話ブチまけられるか!コンプラ的にマズいだろ!!」

 「まだまだあるぜ!あいつらの基地は利権問題がめちゃくちゃ面倒でな、地下に広げすぎた敷地が……」

 「あああもういい!!誰かコイツを押さえつけておけ!!」

 ☆

 「(ボスラ様から大体の事情は聞いた。放置したら何をやらかすか分からない爆弾ではないか……。本当に扱いに困るぞこれは……)」

 「メビウス様!ヒーローがやってきました!!」

 「そうか。よく来たなヒーローたちよ!!我々の邪魔をするというなら、今日こそ覚悟してもらおうか!!」


 遂に始まった今週のヒーローVS怪人。無数の戦闘員に囲まれるヒーローは4人ばかりであった。

 「おい!ブラックはどうしたんだ!?(遂に逃げやがったなあのクソ野郎……!)」

 「そんな!ブラックがいないのに私たち勝てるの!?(あのバカ、いいカモだと思ってたのに)」

 「仕方がないが、戦わなければ世界は救えないんだ!!(あー早く終わらせてピンクと遊びて―)」

 「……敵は斬るのみ(レッドとピンク殺す……!)」


「ゆけい!我が僕たちよ!ヒーローを始末してしまe」

「うおおおおおおおおおお!!!!覚悟ぉぉぉぉぉぉおおお!!!」

 「おい待て新入り!!バカ野郎!!(ヒュッ)」

 「(ビシッ)グハアッツ!」

 「あ、危なかった……お決まりの展開を無視して先走るやつがいるか……! さあ行け僕たち!!」

 「「「ヒャッハー!」」」

 「なんだあの下っ端……?勝手に出てきて止められてるぞ?」

 「そんなことより敵が来てるわよ!!」


眼下で前哨戦が繰り広げられる――

 「馬鹿かお前は!雑魚が一人で殴り込みに行ってどうする!」

 「あーちっくしょう、何しやがる。やっぱこのカッコじゃ駄目だな。」

 「ちょ、おま!何スーツ脱いで……は!?下にヒーロースーツ!?」

 「これだよこれ。今ならあいつらをボコせる!!」

 「やめろと言ってるだろ!その姿で戦いに行くな!!ああクソッ!!」

 「モガッ!!(な、何だ。口封じ!?それに鞭に縛られて……!)」

 「(ボスラ様はコイツを帰したら帰したで面倒ごとになりそうと言っていたが……!ウチにいられても制御できん……!)」


 「おいレッド!アレを見ろ!!」

 「何っ!?あれはまさか……ブラック!?」

 「敵に捕らわれていたなんて!!」

 「……驚愕」


 「フハハハハハ!!貴様らの仲間のブラックは既に我が手にあり!!(もう今回は俺たちの負けでいいから早くコイツを助けに来い!!巨大化もしないから!!)」」

 「ブラックがいないと合体ロボも使えない……!でも俺たちは負けるわけにはいかないんだ!!(あの野郎面倒かけやがって。こっちも暇じゃねーんだわ)」

 「何としてもブラックを助けなきゃ!!(カモは逃がさないわよん)」

 「見せてやろうぜ、俺たちの力を!(はいツケひとつー。いい加減にしろよ足手まとい)」

 「……負けない(死ね色情魔ども)」

 

 

 「何だと!?五人用のバズーカを四人の力で!?(ブラックごとやるつもりか!?!?)」

 「ムグー!!(キエエエエエエエエ!!!)」

 「「「「うおおおおおおお!!!友情!努力!勝利!」」」」


 チュドーン

 ☆

 終戦、何も残らない荒野――。


 「怪人はやっつけてやった。もう大丈夫だブラック」

 「私たちみんなあなたのこと心配してたのよ!」

 「これでまた俺たち、最強だ」

 「……良かった」

 「お前たち……」

 温かくブラックを迎える仲間たち。

 いつもと変わらない彼らの輪に、フッと澄ました顔で加わろうと歩き出す。


「(――次は宇宙警備隊だな)」

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