転生の十二匹

うさトイプー茶々

子編 プロローグ

 十二支……「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」の十二種類の獣達から成す神使であり、幼き少女から年老いた男まで老若男女ほぼ全ての人が知っているかの有名な競争によりその地位を勝ち取った。


 ほとんどの獣が自身の持つ能力を最大限に利用している中、何も考えずただひたすらにゴールを目指して走り続けた獣もいれば、自身の鈍足さを理解して計画的に動いた獣もおり、そしてある獣は他の獣を騙し、その上別の獣も利用するだけ利用して何食わぬ顔で一番の権利を手にした……。

 

 自身の利のためならば他の生き物を騙すのも利用することも厭わない恐らくは十二の神使の中でも最弱の存在。しかしならば全ての生物が最も必要とせざる生命力の一点においてはずば抜けて高い物を持っていた。

 どれほど過酷な環境に身を置かれようと、いくら卑怯卑劣と罵られようが生きて生きて生きて生きて、ただ生き抜いてきた。

 その獣の名は……。



■ ■

 


 「――ケホッ……コホッ……カハッケホッ……」


 どこか死を予感させる消毒用アルコールの香りと目が眩みそうになるほど血の匂いが充満する暗い病室内、硬いベッドの上にいくつもの点滴の管を取り付けながら横たわる少女の口から出る咳はとどまる事を知らず、それと同時に口から吐き出される黒味の混じった血によって純白だったはずのシーツにできた赤い染みはどんどんと領土を広げてゆく。


 少女の体は常に死を感じていた……。

 生きているだけで寒気に震え、熱に浮かされ、筆舌に尽くし難い激痛に蝕まれ、謎の無力感に苛まれていた。


 本当にただ生きているというだけの状態。

 永遠と言ってしまっても過言ではない期間に渡って苦痛に虐げられる点を見れば活動を止めた屍の方が多くの人にとってよほどましに思える事であろう……。


 そんな少女のそばでは一組の男女が何もできない自分達の無力さに対してか、はたまた本当にいるのかどうか存在すら疑わしき神に対してうなのか、恨めしそうな顔で苦しむ少女を見つめていた。

 少しして女性の方が不意に溢れた思いを口から漏らす。


 「かわいそうに……なんで貴方がこんな苦しい思いをしないといけないの? ……神様はひどいわね……こんな状態なら……こんな状態だというのならいっそ…………」


 そこまで言って自分がとんでもない事を口走ってしまっている事に気づいた女性はその続きを言葉にする代わりに顔を両手で覆い呻くように泣いた。

 隣に座っていた男性も女性の気持ちが痛いほど理解できるのか残酷な失言を特に咎める事なく黙って女性の肩を抱いた。

 

 「――失礼します」


 少女が咳き込み吐血する音と、女性の啜り泣く声だけが聞こえていた病室の扉がいきなり開けられると、一目で医者ではないとわかる白衣とは対極の黒いスーツを着た男が入ってきた。


 「な、なんですか貴方は? 部屋を間違えていませんか?」


 「いやいや、私こちらに難病を患っているお嬢さんがいるとお聞きしまして」


 「それがなんだというんです! 貴方に何か関係があると言うんですか!?」


 「ありますよ」


 感情を剥き出しにする男に対してスーツの男は胡散臭い笑みを見せながら続けた。


 「私どもであればお嬢さんを救えるかも知れませんよ……?」

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