第11章 選別
森の奥は、思ったよりも暗くなかった。
光は届く。ただし、まっすぐではない。
木々の間を縫うように、細く落ちる。
影は揺れず、位置だけが少しずつ変わる。
少女は歩く。
来た道を振り返らない。
森に入った者は、前を見るものだ。
視界の外で、小さく枝が折れた。
獣のものではない。
重さが、足りない。
少女は反射的に身を低くする。
何かが来る気配はない。
それでも、次の一歩を遅らせた。
遅らせたこと自体が、試されていると知っている。
前に進めば、罠があるかもしれない。
止まれば、何かが近づくかもしれない。
どちらも、森の中では同じ重さだ。
少女は、歩いた。
その瞬間、道が変わる。
正確には、変わっていたことに気づく。
木の配置が、わずかにずれている。
通れたはずの隙間が、狭い。
避けるために、体をひねる必要がある。
少女は身を捻る。
服が枝に引っかかる。
布が裂ける音は、小さい。
それでも、森は反応しない。
血は出ない。
転ばない。
危険は、与えられていない。
ただ、余裕だけが削られていく。
呼吸の幅が狭くなる。
視界が、足元に寄る。
判断に使える時間が、少しずつ減る。
少女は気づく。
森は、正解を求めていない。
失敗を待っている。
罠はない。
獣もいない。
あるのは、選択の連続だけだ。
少女は、歩調を一定に戻す。
早くもしない。
遅くもしない。
枝を避ける角度を変える。
足の置き方を浅くする。
視線を上げすぎない。
森が、沈黙する。
それは、満足ではない。
評価の保留だ。
やがて、地面がなだらかになる。
木々の密度が下がり、視界が開ける。
少女は、そこで初めて立ち止まった。
何も起きない。
何も与えられない。
何も奪われない。
森は、答えを出していない。
それでも、はっきりしていることが一つある。
この森は、
生き残る力ではなく、
削られた状態で、どう振る舞うかを見ている。
少女は歩き出す。
戻らない。
森は、まだ見ている。
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