第9章 影響
森を出るころには、光は高くなっていた。
同じ道のはずだった。
足裏に伝わる土の感触も、枝の位置も、変わっていない。
それでも、歩幅が合わない。
ほんのわずかに、遅れる。
少女は立ち止まり、呼吸を確かめた。
乱れてはいない。
胸の奥も、静かなままだ。
手を見る。
さっき触れた指先に、変化はない。
汚れも、傷も残っていなかった。
それなのに、森の音が近い。
鳥の羽音、葉の擦れる気配、水の流れ。
距離感だけが、少しずつずれている。
村が見えてきた。
煙、屋根、人の動き。
いつもの光景だ。
少女は歩き出す。
だが、無意識に進路を微調整していることに気づく。
避ける必要のない場所を避け、
通れるはずのところで、足が止まる。
理由は浮かばない。
危険だ、という感覚もない。
ただ、そうしたほうが自然だと思ってしまう。
村に入ると、誰も異変を口にしない。
呼び止められもしない。
少女自身も、何かを言う必要を感じなかった。
水を汲み、布を干し、道具を戻す。
動作は正確だ。
けれど、少しだけ間がずれる。
手を伸ばす前に、一拍置く。
視線が先に動く。
体が、判断を追い越している。
夕方、森の方角を見る。
奥は見えない。
いつも通りだ。
それでも、少女は知っている。
触れたものは、まだ終わっていない。
変わったのは、世界ではない。
少女の側だ。
それだけのことだった。
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