第6章 異変の正体

森の奥はさらに暗く、樹間の光は細い線となり、地面に点々と落ちる。

少女は慎重に歩く。

足元の枝を踏む音が、いつもより大きく響くように感じる。


再び、あの形が現れた。

今度は、前回よりはっきりと輪郭を認められる。

でも、何かに似ていると言えるほどではない。

それでも、確かに“そこにある”のだ。


少女は息を整え、手を刃に触れず、その存在を観察する。

形は小さく揺れ、森の影と絡まり、完全には見せない。

光が差す角度によって、表面の色や質感が微かに変わる。

乾いた葉や湿った土の匂いに混じる、何か異質な匂いも感じる。


少女の足は自然に止まり、視線をその形に注ぐ。

近づけば姿は変わるかもしれない。

でも、近づきたいと思う衝動は抑えられた。

ただ、存在を確認したいだけだ。


森の空気が重くなる。

葉がざわめき、風が一度止まる。

少女は手を刃に置かず、心も体も静かに待つ。

形は微かに揺れ、再び森の影に溶けていく。


少女はそっと歩き出す。

その後ろ姿に、森は静かに呼吸を返す。

だが、視界に残る微かな違和感は、消えることはない。

少女は確かに、森の奥に何か“他のもの”があることを知った。

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