第3章 小さな異変

森の中は、まだ湿った空気が漂っていた。

日差しは少し高く、霧は薄くなり、木漏れ日が地面に細く筋を描く。


少女は踏み慣れた道を歩く。

枝を踏む音、葉の擦れる音。

耳に届くのはいつもと同じ森の声だ。


けれど、一瞬だけ、何かが違った。

風に揺れる草の陰から、微かに動く影。

鳥の声でも、落ち葉でもない、妙な気配。


少女は足を止めた。

視線を向けるが、影はすぐに消えた。

手が自然に、柄の短い小さな刃に触れる。

まだ使う時ではない。ただ、確認しただけ。


歩き出すと、足元に小さな跡があった。

深さも形も一定でない、何かの足跡。

でも、森に慣れた目ならすぐにわかる。

これは、今日出会うものの、ほんの一部だ。


風が一度だけ止まり、葉がざわついた。

鳥の声も、木漏れ日も、すべてがほんの一瞬止まったように感じる。


少女は立ち止まり、影の残像を心に留める。

言葉もなく、ただ歩みを進める。

森は何も語らない。

だが、どこか、いつもと違う空気が流れていた。


日常は続く。

葉を踏み、枝を避け、光の筋を追いながら。

それでも、少女の目に映るものは、わずかにずれていた。

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