メタでメタメタにしてやる!
夜凪東(よなぎ あずま)
第1話:これって題名?とりあえず「眠りを妨げる者!」って感じでいいかなーあははーそれとも「プロローグ」の方がよかった?
物語も時間もない空間に、ひとりの少女が浮かんでいた。
上下も前後もない、意味のない空白の中で、まるで布団にくるまるみたいに丸くなっている。
「ん……」
瞼がわずかに動く。
「……さっきから、しゃべってるの誰?」
え? 私ですか?
私はこの物語の状況とか人の表情ですとかを伝えることを担う語り部、ナレーター的な者ですが――
「うるさいなぁ。眠りを妨げないでよ」
は、はぁ……。
「よろしい」
……え?
なぜこちらが許可をお願いした側のような空気になっているのかはさておき、少女は再び目を閉じた。
この方は――
「ちょっと」
再び、眠そうな声。
「今私の名前勝手に言おうとしたでしょ、人に名前教えるとか、プライバシーの侵害じゃないの?」
え、えぇ……。
しかし物語上、最低限の紹介は必要でして……。
この物語の主人公でもありますし。
「……はぁ。めんどくさいんだけど」
そう言って、彼女は指先で無を掻いた。
その瞬間、いくつかの下位物語が音もなく消えたが、彼女は気にしない。
「で、ナレーションするのってバトル系?どうせ私が勝つだけでしょ、省略して、あとバトルとかめんどくさいことしたくない」
い、いえ。
これは勝ち負けの話ではなく――
「なら、なおさらどうでもいい」
布団代わりの“何もないもの”を抱き寄せ、少女はもぞもぞと体勢を変える。
「ねぇナレーター」
……はい。
「黙ることできない?」
その問いかけは、お願いの形をしていなかった。
事実確認のような、当然の前提のような声音だった。
「私、今から寝るから」
あくびがひとつ、零れ落ちる。
それだけで、
この物語が属していた階層に、ひびが入った。
「てかさっきからさ」
少女は片目だけを開け、こちらを見た……気がした。
「私がしゃべってるの、たまに無視するのやめてくれる?」
え? 無視?
なんのことか、さっぱりですが――
「とぼけないで!あるでしょ。メタのメタ視点で語る時」
……な、なんでそれが。
この気だるげな少女こそ、
全知全能の神々にすら飽きた存在、
アマカミ・ネムリである。
「だから」
低く、眠そうな声が割り込む。
「今みたいに、私を無視して“設定の説明”に入るのやめてって言ってるの、あと勝手に名前言ったこと許さないから」
……。
「物語が一段上に逃げる感じ、嫌いなんだよね」
彼女はそう言って、指で空間を軽く弾いた。
“上位の語り”が、一枚、剥がれ落ちる感覚。
あ、あの……?
「安心して。消してないよ」
目を閉じたまま、ネムリは言う。
「ただ、そこには行けなくしただけ」
困ります!ナレーションしないと私いる意味ありませんから!
「てへ⭐︎意地悪すぎちゃったかな?元に戻したげる」
よかったこれでナレーションできる。
無の空間に、輪郭が生まれる。
それは部屋でも世界でもなく、
**彼女が話を聞くためだけに用意した“静かさ”**だった。
「私が起きてる間だけしゃべって良いから」
……了解しました。
「よろしい」
またその言い方だ。
「じゃ、続けて」
ネムリは少しだけ体を丸め、
それ以上は何も言わない。
眠るわけでもなく、
起きるわけでもなく。
――ただ、聞く姿勢だった。
彼女が起きている。
それ自体が、
この物語にとっては異常事態だっ—
あれ?なんかメタ的な言葉使おうとしたら喋れないんだけど!ちょっと!また"上位の語り"消したでしょ!
「バレちゃったかー」
バレちゃったかーじゃないですよ!仕方ないこうなったら!
彼女は依然眠そうな顔で——
「もぅ……うるさいなぁ」
アマカミ・ネムリは、露骨に不機嫌そうな声を出した。
「メタのメタのメタ視点で話さないでよ。わかるんだからね。さっきから私の行動とか表情とか、またいちいち言ってきてるでしょ上位の語りのさらに上の上位の語りだったらバレないって思わないでよ!メタ形式は全部私内包してるんだから!」
……は、はぁ。
「無視するのもめんどくさいんだよ、消すよ」
ヒェッ!消さないで!お願いします!
「消さないよ、流石にうるさいくらいで消す器の狭さじゃないから」
正直に言えば、このままだと小説というより
コントで終わってしまう気がするのですが。
「だから」
被せるように、彼女は言った。
「そうやって“メタ”に逃げるからややこしくなるの。やめて」
ですが、そうしないと
読者に状況や空気が伝わらないと言いますか、さっき許可も貰いましたし――
「…………」
沈黙。
無の空間が、ほんの一瞬だけ重くなる。
「……うるさい!」
ぱっと目を開き、ネムリは上体を起こした。
「わかった、なるべく無視する。
私もうるさい理由で人消すの嫌いだからさ」
それ、基準がだいぶ怖いんですが。
「で?」
ネムリは小さく首を傾げる。
「ナレーターさんは、何をナレーターするの?」
……あなたの生活です。
「私、寝るだけだよ」
あっさりと言い切る。
「あと、十五兆年と……ちょっと寝よっかなピッタリに起こしてよ…」
ちょっと待ってください。
寝ないでください。
「?」
あなたにはこれから地球に行ってもらって、
ドタバタコメディ小説の主人公として
活動してもらいます。
「……めんどい」
まさかの即答!?
そこをなんとか!
「……うーん」
ネムリは天井もない虚空を見上げる。
「仕方ない。いいよ」
――通った!?
「ほんと?」
「条件付きだけどね」
ありがとうございます!
では早速、地球に――
「地球?」
ネムリは少し考える素振りを見せた。
「あぁ……そんなのもあったね。
確か私が百五十六兆歳の時に作ったやつ」
……はい?
「あのさ、戦争ばっかでさ。
だいたい毎回つまんない終わり方する駄作」
駄作。
「まだ連載中らしいけど、あれ。
どうせ今回も微妙な結末になるよ」
百五十六兆歳って、
世界が始まる前どころの話じゃないんですが。
「そうだよ」
あっさり。
「だって私、ずっと存在してるもんちなみに世界は今、約無限の無限乗の無限乗の……って感じで何回も終わっては始まらを繰り返してるよつまりは無限以上目の世界ってことだね」
……規模がヤバすぎて正直よくわかりません。なんですかその小学生も付けなさそうな設定は
あと地球をそんなにディスるのやめてください。
あなたの“作者”も地球の人ですから。
「作者?」
ネムリは、少しだけ笑った。
「自分が作ってるつもりで、
実は作られてる側って気づいてない、
あの哀れな存在のこと?」
……ま、まぁ。
「否定しないんだ」
ええ、まぁ……ろくでなしなので。
「ふーん」
ネムリは再び目を閉じる。
「じゃあ、そのろくでなしのために少しだけ起きてあげる」
それはつまり――
「安心して」
眠そうな声で、彼女は言った。
「世界は壊さないよ。
今日は、コメディの日だから」
無の空間が、静かに歪む。
次の瞬間、そこには――
**地球へ続く“適当な入口”**が開いていた。
メタでメタメタにしてやる! 夜凪東(よなぎ あずま) @Kamimamita0110
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