最も嫌な音で最も愛おしい音

アデビィ 📖

最も嫌な音で最も愛おしい音

笑い声がする。

わっはっはではない。がっはっはでもない。

ふふふ、と無意識に口角と鼻が同時に笑う、あの笑い方。

一体何が楽しいのか、それをつい考えてしまう。

そして必ず最後には、

肩は揺らしつつも、心は揺れてない。


そんなことしか経験してないからなのか、私は笑い声が聞こえると、一度体がびくりと震える。


はっきり言ってアレルギーなのだ。


17回目の春の、ある寒い雨の日、玄関の前に人間がいた。


彼は全く笑っておらず、虚ろな目で遠くを見て、体育座りをしていた。

この日の選択は、私にとって最も愚かで、最も正しい選択だった。


ひとまず家に上げ、44℃のシャワーを浴びせ、服を着てもらった。


理由を聞くと色々めんどくさいので、

私は深く突っ込まずに用事が済んだら好きなタイミングで出ていっていいと言った。

彼は笑わず、しかし目に潤みがあった。


…結局私たちは2人で別の家に住むことになったが。


だんだん彼と過ごすうち、隣りにいるたび顔が熱くなっていった。

これがいわゆるアレなのはわかった。

でも私なんかでいいのかと思い始めてきていた。


そんなとき、18回目の春、

ついに彼がふと、ふふふと笑った。


でも彼の笑い声は、私のアレルギーには反応しなかった。

それどころか、私も初めて心と共に肩が揺れた。


22度目の春、キツネの嫁入りの日。


今では、彼の笑い声がこの世で最も愛おしい嫌な音だ。

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