禁断の百合園

月天下の旅人

新しき花の香り

甘い、甘すぎる香りが鼻をくすぐった。

百合園学園の正門をくぐった瞬間、私は息を呑んだ。

白亜の校舎を囲むように咲き乱れる純白の百合。

風が吹くたび、花びらが舞い、まるでここが現実じゃないみたいに幻想的だった。

「ようこそ、百合園へ」

迎えてくれたのは、黒髪を優雅に揺らす先輩だった。

名札には「リリア」とある。

彼女の微笑みは完璧で、どこか聖女みたいに見えた。

「新入生のアリアさんですよね? 私、三年のリリア。お世話係に任命されました」

私は軽く会釈して、声を少し高めに整えた。

「よろしくお願いします、リリア先輩」

制服のスカートが風に揺れる。長い髪が肩に絡まる。

百合園学園は、外部との接触を極力遮断した完全な女子寄宿校。

男子禁制、いや、男子の存在自体がここではタブー視されているらしい。

だからこそ、私はここに来た。

クラスに案内されながら、リリア先輩が優しく説明してくれる。

「ここではみんな姉妹みたいなものなの。女同士だからこそ、深い絆で結ばれる。外の世界の汚れなんて、ここには一切入ってこないわ」

その言葉に、私は内心で苦笑した。汚れ、ね。

確かに、この学園は綺麗すぎる。

廊下を歩く生徒たちは皆、美しく、優雅で、互いに微笑み合い、手を繋いだり肩を寄せ合ったりしている。まるで絵本の中の楽園だ。

でも、私は知っている。この楽園が、どれほど脆いかを。

教室に入ると、みんなが一斉にこちらを見た。好奇心と、優しい歓迎の視線。

「新入生のアリアちゃんだって!」

「かわいい〜!」

「髪、綺麗ね」

次々と声がかかる。

私は照れたふりをして、席に着いた。

窓際の、百合の庭が見える席。

リリア先輩が隣に腰を下ろす。

「緊張してる?」

「……少し」

本当は、全然。

私はここに入るために、何年も準備してきたんだ。

昼休み、屋上の庭園でリリア先輩と二人きりになった。

百合の花に囲まれながら、彼女が静かに言った。

「アリアちゃん、ここに来てくれて嬉しい。この学園は特別な場所だから……大切に守らなきゃいけないの」

その瞳は、真剣だった。

私は微笑み返した。

(守る、か)

違うよ、リリア先輩。

私は、この楽園を壊しに来たんだ。

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