妖怪捕縛江戸巻
冬月鐵男
第1話
世は徳川家が江戸の居を構えてから何年経ったころなのだろうか、今や天下のお膝元である江戸は栄化を極め続々と人々が集まっている。
人々は長屋へと押しやられており、そんな幾つかある長屋の一つである
「まっったあんた! 家賃滞納して、いったいいつになったら払うの!?」
目の前にいるのは中年の少し太った女性、この長屋の家主の妻だ。一方叱りつけているのはまだ若い――つい先金大人になったばかりかのような――男である。
「
女は男の名前を叫び癇癪を起こしたかのように家賃を払え、と訴える。
「はいはい、事件が起きたら払いますよ」
吾妻は
現在、吾妻の上司たる同心はあまり事件には関与しておらず寧ろ別の事に夢中になっているようだ。
よって現在、吾妻は収入がなくこうして家賃を滞納している状況下にある。
「ッッッ!!! 明後日また来るねッ! そん時は容赦しないよッ!」
女は捨て台詞を吐いてどこかへ駈けていく。またどこから自分のようなロクデナシのところへ行くのだろうか?
「はいはい、一昨日来てくだいねー」
そうブラブラと手を振って取り立て人を見送った後、シンと静まりかえった部屋のなか吾妻がポツリという。
「もういいぞ、
外にある厠の中から出てきたのは15歳位の少女。おどおどとした表情で少しやつれているかのような姿をしている。
「もう……出てったの?」
摩耶と呼ばれた少女は、玄関に立ちっぱなしでまだオドオドとしている。
「ああ、出でったさ。そろそろ摩耶も慣れた方が良いんじゃないか?」
「ううん、あの人うるさいから」
そう言いながら敷居をまたいだ摩耶は吾妻の元へ駆け寄り隣へと座る。
「あ、そいうえば吾妻に良い話しがあるよ」
「お! なんだ!? 事件か?」
「ううん、事件じゃない。でもお金にはなると思う。近所に質屋あるでしょ? あそこで最近悪い気が溜まっているの」
「ふ~~ん、それが金の香りがすると?」
「うん、あそこの主人は裕福でしょ? 何とかしたらお金。くれるかも」
「そっか、じゃあ行ってみるか。摩耶はどうする?」
「私も行く、吾妻だけじゃ力不足でしょ?」
「おいおい、これでも俺は岡っ引きだぞ? 力は十分にあるさ」
「ううん、そうじゃなくて妖怪とかに襲われたら吾妻、すぐに倒されちゃう」
摩耶は人間ではない
「そっか……まぁりゃあそうか! わかった! 一緒に行こう」
吾妻はいくら妖怪が視え契約している身でも、霊能力者の類ではない。妖怪絡みのときはいつもこうやって摩耶について行ってもらうのだ。
「うん、吾妻ならそう言うと思った。ついてきて」
摩耶の先導のもと長屋を出て町中の通りへと出る。通りといっても大通りではなく、こじんまりとしたどこにでもあるかのような通りだ。
そして、例の質屋へとすぐにたどり着く。どっしりと居を構え、どこか
「なぁ摩耶……本当ににここであって……」
と、先程隣にいた摩耶の方へ顔を向けるが、そこには誰もいない。
摩耶は吾妻以外の人間があまり好きではないのだ、人のいる場所に行くとすぐ姿を消してしまう。
「まぁ……いつもの事だししゃぁねえか!」
いざという時は、しゃしゃり出てくれることを期待して店内へ入る。
「もーーーし、誰かいますかぁーー?」
暖簾をわけて店へと入るとすぐに番頭がいた。
「へいらっしゃい、何か御用で?」
相手はこの店の雰囲気と同じくらい明るいちょんまげの男だ。
「ちょっと奉行所の者でさ、ちょっと変なことがないか聞きに来たんだ」
奉行所。という言葉を聞いた瞬間相手は、ぎょっと目を見開いて驚いた顔をした。
「ぶっ……奉行所!?
「あー違う、そういうことじゃないんだ」
吾妻は頭をポリポリと掻きながらいった。
「なんかここらへんで変な噂が立っててさ、『妖怪がでるー』とかそういうのないかい?」
「へぇ……特にそれらしい噂は立ってはいませんが……」
番頭は何か含みのある言い方で返して吾妻は何か妖怪とは別の事件があるな、と思った。
「ふ~~ん、とこりで店主がいなさそうな気がするがどうしたんだい?」
「へい、実は最近親分の調子が悪くて……お医者様にも診てもらったんですが、原因が分からず……まるで空気が抜けたように悪くなったんですよ」
「なるほど、これはちょっと面倒くさそうだな……」
摩耶が言っていた、『悪い気』というのはこれが絡んでいるだろう。そう吾妻は踏み込んだ。
呪いの類かは分からないがとりあえず突っ込んでみることにした。
「なぁ、その件……任せてくれねぇか? もしかしたら俺達の力で何とかなるのかもしれんさ」
相手は困惑の表情を浮かべた後、頷いた。
「奉行所様がなんとかしてくれるんなら……藁にもすがりたい気持ちなんで……おねがいしやす」
「わかった、それじゃあ俺は聞き取りに行くのでこれで」
「はい……お長いしやす」
吾妻は小ぶりに手を振られられながら店を出るのであった。
妖怪捕縛江戸巻 冬月鐵男 @huyutukiakira
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