嘘でいいから、ここにいさせて

@Hatuha

第1話 嘘と、告白

「好きです。付き合ってください。」

人生初の言葉だった。厳密に言えば何度か告白されたことはある。しかし、本当の告白はされたことがない。告白されて1番に考えることはなんだろうか。現実だと思えない、これが恋の始まり、様々な表現がある中で私にとっての告白とは「練習台」だった。


「おはよう、真奈美!今日も学校とかキツ〜」

「そうだね。星実いつもそう言ってる。」

「当たり前だよー。」

こんな他愛のない会話ができるのは姉である星美だけ。姉と言っても私たちは双子で大した差はない。差はない、そうだ、差はないはずなのに、私たちは似ても似つかない双子である。

「本当ににてないよね。」

「てか、なんか調子乗ってるくない?」

「わかる。それに比べてお姉さんの星美さんは美人で優しくてなんでもできるよね〜。」

「似てないね。」と、何度言われたことか。思い出せばキリがない。

姉の星美は美人だ。しかし、双子なのだから私も幼い頃は可愛いねと言われたことはある。しかし、星美は生まれ持った顔面にプラスしたメイク能力やスキンケアを怠らない理念がある。それに比べて私はパサパサの髪の毛に乾燥した肌、メイクなんてせいぜいリップクリームくらいしか塗ったことがない。それにプラスし、星美は全国学力テスト第5位、幼い頃から続けているクラシックバレエではスカラシップを取ったことのあるほどの実力保持者。私の取り柄と言えば数学と絵。数学は毎回のテストが満点でその他教科も8割は取れる。絵は小さなコンテストで最優秀賞を取ったこともある。一般的にはそれで十分なのかもしれない。しかし、星美のようなコミュニケーションも芸術も勉強も見た目も兼ね備えていない私は比べらるしかないのだ。双子なのだから、と。


2学期ももうすぐ終わり、もう冬休みへ突入する。今年は長かった、そう感じるのは私だけだろうか。

玄関を出ると雨が滝のように降っていた。傘が壊れてしまい使うことのできない私は仕方なく玄関から一歩踏み出した。

「もう、涼太ったら、!」

「ごーめーん。」

声のする方へ目をやると仲の良さそうなカップルが2人で仲良く傘をさして歩いている。

「マジでー?!本当にバカだなあ。」

「酷すぎー。謝ってくださいー。」

もう一方は笑いながらバッグを傘がわりに走って帰ってゆく仲の良さそうな二人組。

周りは皆笑顔で雨を吹き飛ばすような輝きを持っていた。私にもそんな時期があっただろうか。少なくとも今は違う。友達と呼べる存在は家の近い幼馴染の悠人くらいしかいない。中学の頃はよく一緒に帰っていたが、高校になってからは悠人が忙しく一緒に帰ることもほとんど無くなった。ふと、ガラスに映る自分に目をやった。なんと醜い姿だろうか。滴る雨の雫は輝いているが当の私は薄汚れている。虚しい。虚しい。虚しい。雨に紛れて溢れてくる涙も汚れている気がした。

「風邪、ひくよ。」

頭に降りかかる雨が止んだと思ったその時だった。

「えっと、いきなりごめん。」

宮瀬、蓮。顔を上げると学校1の人気者、宮瀬蓮が私に傘を差し出していた。

「あの、えっと、、」

声が出ない。というか出せない。心臓がバクバクと音を立てている。

「あのさ、家まで送るよ。」

蓮はそう言っていこう、と歩き出した。それから沈黙が続き、それを破ったのは私だった。

「あ、あ、あの、私、家、ここなので。ありがとうございました。」

そう言って傘を出ようとしたその時、

「好き、なんだ!」

静かな雨の音に紛れて蓮の透き通った声が響いた。

「え?」

聞き間違えだと思った。それかドッキリ。でもこのタイミングでドッキリを仕掛ける人がいるだろうか。

「いきなりごめんなさい。でも、好きです。付き合ってください。」

正直な感想を述べて良いのだろうか。嬉しかった。心の底から。素敵な笑顔ととにかく自分を好いてくれた人がいたということがとにかく嬉しかった。

「星美さんのこと、前から気になってて。」

え?デジャブ。初めに思ったこと。戸惑いはしなかった。すぐに現実に自分を引き戻したから。嬉しかった気持ちも自分で全部、かき消した。


中学の時、初めて告白された。

「好きです。付き合ってください。」

その時は素直に嬉しくてこれが本当の告白だと信じ切った。

「あ、あの、えっと、嬉しいです。よろしくお願いします。」

俯きながら顔を上げると

「あ、やべえ。間違えたわ。妹の方だった。」

「まじか。星美さんこの前髪切ってたもんな〜。」

「でもさ、練習台になったからよくね?」

告白してきた男子生徒は近くにいた友達と話しながら去っていった。この人になら何を言ってもしても大丈夫。きっとそんな安心感で私にそう言ったのだろう。そのせいで人の言葉を信じられなくなったことも知らずに。


「えっと、ごめんなさい。実は私_。」

「待って。」

本当のことを言おうとした時、蓮が口を挟んだ。

「考えて欲しいんだ。返事はいつになってもいい。本気なんだ。初めて好きになった人で、だから、緊張して。その、ごめんね、そんなこと。でも、考えて欲しい。」

蓮の目は真剣だった。あの時の男子生徒のようじゃない。きっと本気で星美を好きになって勇気を振り絞って告白したのだろう。やはり、本当のことを言うのがベストだろう。そう思った時、1週間前の出来事が頭をよぎった。


久々に星美と帰ったあの日、星美は珍しく怒っていてバッグを振り回していた。

「ねえ、真奈美、宮瀬蓮って知ってる?」

「え?あの、イケメンで有名な?」

「そう。勉強、スポーツ万能な宮瀬蓮。あいつさ、私の友達の告白も聞かずに去っていったクズ野郎なの!」

声を張り上げてそう言う星美の頬は赤く染まっていて本気で怒っているようだった。

「もう少しで告白ってところで『ごめん。また、今度。』って。あんなやつ大っ嫌い!」


もしも私が蓮に真実を伝えたらどうなるだろう。きっと蓮はごめんと言って星美に告白するだろう。星美は優しいと有名だが誰にでもというわけではない。中学の時の男子生徒は一生傷に残るような振り方で振った。今回の件はどうなのだろう。あの時までにはならないと思うがきっと蓮は傷つくだろう。私はどうすればいいのだろうか。

「じゃあ、また明日。そうだ、えっと、LINE、追加していいかな?返事はそこで大丈夫だから。」

「あ、でも。」

蓮はもうスマホを取り出している。学年LINEから星美を追加すればきっと星美は_

「待って。私もずっと前から好きでした。ありがとう。ちょっと戸惑っちゃってー」

できる限り星美をイメージしていった。私は嘘をついた。誰もを傷つける嘘を。

「本当に?」

蓮はみるみると笑顔になっていき、私の手を掴んだ。

「ありがとう。また、明日ね。」

そう言ってイキイキとした様子で帰っていく蓮を見つめていると自分が憎たらしい。

「どうして?」

知らぬ間に流れ出てくる涙が苦しい。嘘をついた。嘘をついた。蓮はこのことを知ったらなんというだろうか。星美は?でも、どうしようもなくこの決断に後悔をしていない私もいた。なぜか今回の告白は嬉しかった。今まで何度も間違え告白をされてきたのに。練習台にされてきたのに。自分が憎い。でも、必要としてくれた、その事実が嬉しかった。あんなに笑顔で愛してもらえるそれだけでよかった。好きになってはいけない。絶対に。今度会った時には絶対に本当のことを話そう。でも、今だけは、今だけは私を許して。


こんにちは。Hatuhaです。前回あった内容を修正してもう一度出させていただきました。応援コメント、フォローよろしくお願いします。どんなことでもいいのでコメントもらえると嬉しいです。

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