オレオレごはん
三渉
オレオレごはん
『もしもし? オレオレ、オレなんだけどさっ、実は大変なことになって、もうどうしたらいいかわからなくって!』
昼寝中に入った電話に、私はがばりと布団から這い出した。
「落ち着いて。まずは何があったのか話してちょうだい」
小物入れの通帳を取り出す。
大丈夫。たいていのことはお金があればなんとかなるわ。
『うん、あのさ、オレ、今すぐ弁当が必要でさ!』
「弁当? まぁ、お弁当なの?」
『そーなんだよ! 腹ペコペコで倒れる! もう日の丸弁当でいいからさぁ!』
「ダメよ! お野菜とお肉を摂らなきゃ元気出ないでしょう!」
慌てて冷蔵庫を開ける。適当なお野菜とお肉を取り出し、すぐに調理に取り掛かった。
あら、こんなもの買ったかしら?
『ねぇちょっと音止まってるんだけど! もしかして指切った?』
「いやねぇ、大丈夫よ。それより一回電話切るわよ」
『わーっ! 切らないで! 弁当ができる音聞いてないと意識朦朧としてくっから!』
「なぁにそれ」
『あとオレなんでもレア派だから、火は弱火で使ってね!』
「はいはい、わかりました!」
時折妙な注文をつけられながら、バランスよく品数を揃えていく。
我ながら食欲をそそる出来かも。
「あとはお弁当箱に、」
『はい嘘ー! 実はちゃんとお弁当持ってましたー! ここにありまーす! ちゃんとありまーす!』
「えっ?」
どういうことかしら? 嘘? 嘘をつかれていた?
じゃあどうして、私、こんな料理なんか……。
『実はさ、オレ、どうしても一緒にお昼食べたくってさ……』
「はい?」
『寂しくって。だって、弁当って、一人で食っても冷たくって……』
「もう、何を言ってるの?」
本当に何を言っているのかしら。
『ごめん。電話越しでいいからさ。オレと一緒に食べてほしい。ごめん。……ね、ダメ?』
「はぁ〜〜〜〜。わかりました。今日だけよ。もう嘘はやめてね」
『うん。嘘はごめん。でもヤダー。明日もオレと一緒に食べてよねー!』
「ちゃんとお友達作りなさい!」
『そんなんめちゃくちゃいるしー』
本当かしら?
「今度会ってみたいわね」
『まだ会っちゃダメでーす! オレもまだしばらく会えないけど、明日もまた電話するから。ちゃんと飯食ってよね! はい、ほら、いただきまーす!』
「あ、もうっ」
やれやれとため息をついて、私もそっと手を合わせた。
「いただきます」
オレオレごはん 三渉 @pig_bu_bu
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