神TUBE〜俺の人生、500人の神々に配信されてるらしい〜

どら猫

第1話 異世界ロードショー開幕

暇を持て余した神々の間で流行っている配信サイト「神TUBE」


その中でも人気なのが「転生者配信」——転生させた人間を観察し、楽しむコンテンツだ。


そして今日も、ある底辺配信者の新作が始まろうとしていた。


画面が明るくなった。


「レディースエンドジェントルマン!」


ピエロのような仮面をつけた司会者が、大げさに両手を広げる。


「本日もやってまいりました」

「転生者の異世界ロードショー!」


『キター』

『待ってた』

『新作か?』

『ナナシ久しぶり』


「今回の世界観は王道も王道——剣と魔法のファンタジー世界でございます」


『まあ、無難だな』

『逃げたな』

『最近、ホラーで滑ってたからな』


「そして、なんと今回は視聴者参加型となっております」


『お、まじか』

『初の試みだな、期待』

『楽しみ』


「では、今回の転生者をご紹介しましょう!」


画面が切り替わる。


宿屋の一室。ベッドの上で目を覚ましたばかりの男が映っていた。


「彼の名は、加藤勝利。」

「前世は——底辺配信者でした」


『草』

『同族で草』

『ナナシの後輩じゃん』

『登録者何人?』


「登録者はなんと12人!」


『少なっ』

『逆にすごい』

『よく配信者名乗れたな』


「さて、視聴者参加型とはどういうことか」

「ご説明いたしましょう」


『待ってました』

『遅いぞー』

『ルール説明大事』


「クエストが発生するたびに、皆様に投票していただきます」

「彼にどんな縛りを課すか——を」


『おお』

『神』

『縛りプレイか』

『いいね』

『こういうのでいいんだよ!』


「そして、決まった縛りは——物理的に強制されます」


『は?』

『物理的?』

『どういうこと』

『強制はだめだろ!神として』


「例えば『褒めながら戦え』なら、口が勝手に褒め言葉を言います」

「『目を閉じろ』なら、勝手に目が閉じます」

「無視はできません」


『鬼畜で草』

『自由意志ないの?』

『転生者かわいそう』

『メリットなさすぎ』

『神として終わってる』

『死んだらうちに来い』


「もちろん、メリットもございます」


『あるんだ』

『聞こうか』

『これは気になる』


「それは"登録者ボーナス"!」

「登録者数に応じて、次の転生時にボーナスがつきます」


『次の転生?』

『今回じゃないのかよ』

『来世ガチャか』

『うわー』

『内容にもよるか』


「ご覧ください」


画面にリストが表示される。


1,000人 → 世界選択

3,000人 → 健康な体

5,000人 → 性別・年齢決定

10,000人 → コミュ力MAX

30,000人 → 家庭環境

50,000人 → 容姿決定

100,000人 → 大金持ちスタート

300,000人 → チート能力1つ

500,000人 → 記憶完全引き継ぎ

1,000,000人 → 全部自由


『おお』

『100万で全部自由は熱い』

『でも100万は無理だろ』

『まあ、人気なやつだな』

『今何人?』


「現在の登録者数は——500人」


『少なっ』

『道のり長すぎ』

『底辺コンビだな』

『草』


「さて、ルール説明は以上です」

「では早速——最初のクエストを発表いたしましょう!」


『きた』

『待って!いきなりやんの?』

『何だ何だ』

『俺も縛られたいんだけど』

『なんか変態混ざってて草』


「クエスト名——『この配信への参加を決定せよ』」


『ん?』

『どういうこと?』

『選ばせるの?』

『参加しないって選択肢あるのか』

『どうせやらせだろ。』

『だよなじゃないと企画倒れ確定』

『ナナシが参加するに強制してんじゃね?』

『脅迫してそう』

『うわー、ありそうだわ』

『本当に選べるなら面白いな』

『即いいえで終了だろw』

『ナナシ史上最速企画倒れある?』

『チート野郎より早いかw』


「では、縛り投票を開始いたします」

「選択肢は全部で4つ。その内の1つを視聴者枠とし、皆様からのご提案から採用いたします」


「コメントをどうぞ」


『マジか』

『全裸で』

『土下座しながら』

『逆立ちで』

『全裸で』

『歌いながら』

『全裸で』

『全裸多すぎ』

『お前ら絶対全裸好きだろ』

『誰得だよ』

『神の品格を疑う』


「では——全裸でを採用いたします」


『やめろ』

『本当に採用すんな』

『誰得だって言ってんだろ』


「それでは、皆様、選択肢の中からお好みのものをお選びください!」


① 本音ダダ漏れ

② 10文字読むごとに通行人にビンタされる

③ 全部大声で音読

④【視聴者枠】全裸で


「投票をどうぞ」


『①』

『①』

『①以外ある?』

『本音なら真実分かる』

『ナナシが脅迫してるか見せろ』

『②も見たいけど』

『③地味にキツい』

『④入れるやついるのか』

『④普通にネタだろ』

『①で決まりだろ』


「投票締め切りです」


【結果】

① 本音ダダ漏れ  67%

② 10文字ビンタ  15%

③ 大声で音読   12%

④ 全裸で      6%


『やっぱり①』

『6%いて草』

『④に入れたやつ出てこい』

『本当に強制してなかったら面白いな』

『それなら即いいえで配信終了するだけで草』

『これで答え合わせできるな』


「いいでしょう!」


「では、今回の縛りプレイは——」


「『本音ダダ漏れ』状態で」

「『この配信への参加を決定せよ』」


「彼の心の声、全て丸見えでございます」


「Are you ready?」


『きた』

『楽しみ』

『即終了あるか?』

『ナナシの答え合わせだな』

『どきどき』


---


画面が切り替わる。


宿屋の一室。勝利の視界にメッセージが浮かんでいた。


『縛り発動:本音ダダ漏れ』

『あなたの心の声は全て配信されます』


(……は?)


『早速漏れてて草』

『困惑してる』

『かわいそう』


新しいメッセージが届く。


クエスト内容、縛りの説明、登録者ボーナス——全てが記載されていた。


(……なるほど)

(つまり、地獄みたいな縛りプレイをさせられる代わりに)

(次の人生にボーナスがつく、と)


『理解早いな』

『さすが元配信者』

『で、どうすんの?』


(100万人で全部自由……)

(今の登録者500人……)

(無理だろ、普通に考えて)


『だよな』

『現実見えてる』

『即いいえか?』


(でも——)


『お?』


---


また、言い訳…してる


その事実を認めると同時に

熱くなる何かが目元に押し寄せる感覚を覚えた。


視線を上げ、思考を曇らせようと抵抗するが、断片的で鮮明な記憶はそれを許さない。


不合格、今後のご活躍を…、彼女いないの?、はいどうもーこんにちはー、登録者12人、おもんな


右手で光を遮断し、声にならない音が漏れ出る。

悔し…い…。変わり…たい…


こんな情けない俺を。

誰にも見られなかった俺を。

誰にも認められなかった俺を。

誰にも知られずに終わった俺を。


今、500人が見てる。


やってやる。

何者かになってやる。

這い上がって、成り上がって——


一人じゃない。

その感覚が、俺の重い足を動かした。


——【参加する】


---


『来た!』

『契約確定!』

『ナナシ強制してなかったwww』

『本物じゃん』


勝利が【参加する】を選択した。


『契約成立』


「素晴らしい!」


ナナシが両手を広げる。


「彼は自らの意志で地獄を選びました」

「嘘偽りなき魂の叫び——皆様ご覧いただけましたでしょうか」


『見た見た』

『ガチだった』

『ナナシ疑ってすまん』

『いや、まだ分からん』

『根性あるやつだな』


「さて、本日はここまで」

「次回——」


ナナシが指を立てる。


「『30分以内に"無事"ギルドでクエストを受注せよ』」

「でお会いしましょう」


『え、もう終わり?』

『短くね?』

『"無事"が不穏すぎる』

『絶対無事じゃないやつ』

『縛り次第だな』

『楽しみ』

『次回も見る』

『登録した』

『俺も』


画面が暗くなった。


【登録者数:523人】

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