PVという生き物の餌――伸びたタイトル、伸びなかったタイトル
PVって、生き物みたいだと思う。
餌(=入口の約束)が見えたら寄ってくるし、匂いが薄いと素通りする。
味(=中身)が良くても、まず匂いが届かないと食べてもらえない。
今回、私の手元にある「他より伸びたほう」と「思ったより伸びなかった」を、いったん“棚”に並べ直してみる。
作品の良し悪しという話ではなく、PVの段階で何が起きていたのか、タイトルとパッケージの観点で整理するために。
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1. 伸びたほう:入口で「何が読めるか」が即わかる
伸びた側の共通点は、まずこれだ。
読む前に、読後の快感が想像できる。
そしてもう一つ。
検索される言葉が、タイトルにそのまま置いてある。
だからPVが先に動く。
A:大衆ワード直球型(転生/異世界/賢者/最強/世界開拓)
・逆ハーレム建国宣言! ~恋したいから国を作りました~
・転生賢者は安心して死にたい ~転生者カノイの一生~
・転生賢者の愉快な世界開拓記
・転生特典のない俺は最強の布陣で異世界に挑む
・異世界大名・天下布武丸の平定
・異世界転生したら魔界の町長だった件 ~銃尾で政治改革はじめます~
この棚の強さは、「読者の脳内フォルダ」にそのまま入ること。
転生=導入が早い。
賢者=強い(か賢い)。
世界開拓、政治改革、平定=やることが明確。
建国宣言=スケールがでかい。
“読む理由”が先に立つ。だからクリックされる。
しかも、ここに「愉快」「安心して死にたい」みたいな温度が乗ると強い。
硬いジャンルの記号に、感情の匂いが付くからだ。
「強者の無双です」だけだと飽和する。
でも「安心して死にたい」は、強者なのに脆さが見える。
人生譚の気配がする。
この“矛盾の匂い”は、強い。
B:再評価・裏方・専門職型(役に立つ快感が速い)
・やぁ!僕は勇者のバックアップ!
・ゴミスキルとはこういうことか ~廃棄物処理スキルの有用性は僕しか知らない~
・異世界板金工
・ようこそ!購買部へ!
・ようこそリサイクルショップ異界の錬金釜へ!~転生特典等価交換~
この棚は、「気持ちよさの種類」が違う。
最強バトルの快感じゃなくて、理解できた瞬間に脳が気持ちいいタイプ。
バックアップ、購買部、板金工、リサイクル、等価交換。
“地味だけど強い”を約束している。
読者はこう思える。
「これ、毎話で工夫が見られそう」
「主人公の仕事ぶりを眺めたい」
「知らない分野を、爽快に料理してくれそう」
つまり、“連載向きの期待”が立ち上がる。
PVが伸びる土台になる。
C:尖ったけど説明不要型(ワードの圧で押し切る)
・男女の立場が入れ替わった世界で俺は最高額の花魁になったらしい ~奴隷から成り上がる転生物語~
・ポメに転生した俺氏、ダンジョン配信者になる
・魔法少女はファンタジー世界では特別ではない
・異世界大名・天下布武丸の平定(※これもこっち側の香りがある)
ここは“刺さる人に刺さる”というより、読者が一瞬で絵を見られるのが強い。
ポメ×ダンジョン配信=一枚絵が出る。
男女逆転×最高額×花魁×奴隷=刺激語が束になって殴ってくる。
魔法少女が特別じゃない=価値観のズレが気になる。
このタイプは、「説明しなくても、気になる」が成立する。
PVが跳ねるのは、だいたいこのパターンだ。
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2. 伸びなかったほう:入口の摩擦が、想像以上に大きい
伸びなかった側は、作品が悪いというより、PV段階で起きがちな“摩擦”が多い。
摩擦はだいたい四種類ある。
1.何の話か掴むまでに一拍ある
2.情報が多すぎて、掴む前に疲れる
3.ジャンル棚がわからず、クリックの理由が立たない
4.既視感が強すぎて、優先順位が下がる
A:詩的・抽象的で「内容が見えにくい」棚
・灰と麦と夜明けのパン
・シルバーバレットイントゥーザスター
・《あしたくる》──アキラと四人の子どもたち──
・メーターが空を支配する世界
・世界は滅びたのか?
・春夏秋冬怪談会
タイトルが悪いわけじゃない。むしろ良い。
でもPVの世界では、「良い=即クリック」にならないことがある。
読者は最初に、“安心できる棚”を探す。
詩的な題は棚が見えない。
棚が見えないと、読む理由を作るのに脳のカロリーが要る。
その一拍で、他の「転生」「チート」「成り上がり」に負ける。
PVって、そういう残酷さがある。
B:要素過多・長文で「強い核が見えにくい」棚
・第23王子(中身OL)はループと工学で“魔導ロボ軍団”を作り、辺境を無双する。
・転生したら第一王女だったのでせっかくなら世直しの旅に出たいと思います!~憧れの御隠居目指して優秀な部下をつれ回し漫遊旅~
・読者公募の俺キャラに転生したんだけど設定盛り過ぎで主人公を食えるから作者が一発キャラにしたのは正解なんだなって現地で思うなどした
情報が多いのは武器になりうる。
ただし、“核”が一発で掴める時だけ。
伸びた側の長文は、刺激語が先に立つ。
(最高額/花魁/奴隷、ポメ/ダンジョン配信、など)
伸びない長文は、面白さが「理解した後」に出てくる。
つまり、クリック前の一秒では勝てない。
これは内容の問題じゃなく、入口の速度の問題だ。
C:ジャンル混線で「棚が決まらない」棚
・バイオロイドサーヴァント
・異世界リロード:転生者達の武器録
・ゲームオーバーのその先で
・転生者は眠れない
・第1次魔王争奪戦!~倒したものは勇者、それ以外はただの人~
・転生者の記録係だけど変なのしかいない件
・帰りダンジョンよってく?
SF、群像、設定勝負、言葉遊び、メタ構造。
この辺は“好きな人が好き”な強さがある。
でもPVはまず母数の多い棚に流れる。
棚が決まらないと、母数の波に乗れない。
だから「刺さらない」ではなく、
「刺さる人に届く前に流される」になりやすい。
D:流行りに見えるのに伸びない棚(たぶん一番つらい)
・異世界投資ファンド〜剣も魔法も使えないので、利回りで世界を救います〜
・異世界卸 ~大量仕入、卸売り、これが商売というものだ~
・悪役令嬢を攻略したい!~記念すべき100周目をあなたに!~
・没落女王は鍛冶屋の煤だらけの青年に恋をした ~やり直した世界でも絶対に手に入れる~
・師匠が過保護なので逆に引き込もってみることにした ~世界は君を見逃さない~
・ゲーム実況者なんだからVRMMOも実況するに決まってるだろ!(※同名が重複しているのも、競合の強さを連想させる)
ここが、私の「わからない」が溜まる場所。
たぶん理由は、流行り要素があるのに“第一印象の勝ち筋”が見えにくいからだ。
投資ファンド、卸売り、利回り――面白いのに、読者の頭の中では一瞬「難しそう」が立つ。
悪役令嬢、やり直し恋愛――棚はあるのに、棚の中の競合が強すぎて、“この作品だけの一言”が必要になる。
過保護師匠、引きこもり――逆張りの匂いがして、快感が「爽快」ではなく「じわじわ」っぽく見える。
つまり、流行りの部品は揃っているのに、クリックの決め手になる“看板の一語”が足りないか、看板が読者の欲とズレている。
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3. そして、レビューが少ない問題
PVは来る。
でもレビューが少ない。
これは「感情フックが弱い」可能性もあるし、別の可能性もある。
たとえば、作品が“きれいに満足する”とレビューは逆に減る。
不満があると書かれる、驚きがあると書かれる、刺さると書かれる。
満腹で静かに寝るタイプの面白さは、数字は動いても言葉が残りにくい。
だから私がここで気にしたいのは、感情フックそのものより、
読後に、言葉を吐き出したくなる尖りをどこに置くか
という設計の方だと思う。
「守りたい」「許せない」「好き」「泣いた」
そういう“感情に名前がつく瞬間”があると、人はレビューを書く。
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4. 結論:私は「かわいい」に寄せる。たぶん正しい
伸びた側にあるのは、結局これだ。
・入口で絵が出る
・約束が一語で伝わる
・読む前に、感情が動く
ポメ、幼さ、愛玩、守護、成長。
“かわいい”は、これ全部をまとめて持っている。
だから私は、しばらくは「かわいい」に振り切る。
それは迎合じゃなく、届け方の最適化だと思う。
かわいいを看板にして、人を呼ぶ。
呼んだ先で、私の好きな仕事物や人生譚や逆張りを、ちゃんと食べてもらう。
PVという生き物に餌を与えて、席に座らせてから、
本当に書きたい料理を出す。
たぶん、今の私に必要なのは、それだ。
エッセイ書いてる暇があったら小説書けよ!!! 風 @fuu349ari
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