某日の夕飯
なかむら恵美
第1話
この時ほど、わたしは。食事の時、自分が良く噛んでいて良かったと思った事は、
ない。
一歩間違えれば、口中が血だらけ。
信じられない出来事だ。
高校3年生の、夏。
カレーライスが、夕飯の日だった。
一年ほど前から、父親は某地へ単身赴任、母親・妹・わたしの女3人で、
のんべんだらりと過ぎしていた。
「できたわよ」
「いただきまぁ~す」
社宅の台所、テーブルで食べ始めた。横に麦茶が置かれている。
「美味しいね。甘いけど、うちのカレー」
「うん。辛いカレーは、食べられない。ずっと慣れ親しんだ味がいいよ」
「そお?」
娘たちの褒め具合に、母も満足そうであった。
(ん?)
何かヘン。何口目かを口に入れた時、ヘンな気がした。
いつもの味。だけどヘン。ヘンなものが混じっている。金属的な感触だ。
鼻紙で口を押え、出す。
黄色に塗(まみ)れ、ババッチくなり、ぐちゃぐちゃになった中に光る金属片。
(何じゃ、こりゃ?)
叫ぶ。「ギャッ!!!!!!!!」
瞬時に認識したのは、包丁の欠片。
包丁の刃先が、横になった状態で鼻紙の中で光っている。
「あ?入ってた?ごめんね」
母親の謝罪が、軽い気がしたけど、子供と言っても高校生。
そんなもんか。
あれが縦に入っていたら?
わたしが良く噛まない人だったら?
そのまま飲み込んでいたらと思うと、ゾッとする。
幼少時から、良く噛んでいて良かった、良かった。
食べ物は、良く噛んで食べましょう。
某日の夕飯 なかむら恵美 @003025
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