おんなともだち
バーニーマユミ
第1話
女の子は付き合う男によっていかようにも変わる。私自身が力強く頷いてしまう、聞いたことがあるようで実感の薄かった言葉だった。
こんな言葉を思い出したのも、少し前、落ち込むことがあったから会いたい、と学生以来の友人が連絡をくれたからであった。彼女と私、両方の都合のいい、1番早い日を見つけ会う約束をした。場所はいつもの喫茶店。彼女は親に車を出してもらうつもりだ、と言っていた。
実は就職してからやや、厄介なことがあった。いや、正直、相手の熱量を目の当たりにし、圧倒されてしまっただけなのだが。
友人の、名前は佳苗だが、佳苗はひとりっ子である。兄と弟がふたりいる4人兄妹のウチからしたら、何となく違う次元の家庭なんだろうな、とは学生時代も薄々感じていた。どこに出かけるにも途中までは佳苗のお母さんも一緒で、必ずお母さんとの待ち合わせ場所まで、私はお見送りについて行った。今思えばなんで?しかない。
私はというと、そこからひとりで帰るわけである。親はどっちも忙しい。迎えには来ない。暗くなる前に帰りなさい、よくある文句を言うまでだ。
話を戻し、私は営業職めいた業務に配属されていた。厳密に言えば営業職とは書かれていないから違うのだろうが、系列店の担当エリアに赴き、時間内に売り上げを出し、売り場の欠品を無いように翌日分の予想発注数を出すーー実際やってみるとかなり上手くいかない。ギャンブルに近い感覚だ。テレビで系列店が特集されれば思ってもないものが売り切れたり、広告も必ずチェックしなくてはならないし、値下げ等も店舗ではなく、自分たちの業務作業のひとつだった。
1店舗2時間半。ほとんどのメンバーは3店舗まわる。繁忙期にはチームリーダーがサポートにまわることもあった。時間はたっぷりに見えるだろうが、しかしひとりでやるには無茶過ぎる。客はまさか売り場で作業をしている人間が店舗のスタッフではない、とは思わないから全く違う制服を着ていても、よく声をかける。ーーマニュアルには断るな、とあるので、客の要望には応えなくてはならない。それが明らかに業務外であれど…。作業は度々、中断せざるを得ないわけだ。
担当エリアは新人が入るたびにシャッフルされるので、ころころ変わる。ちなみに店舗間の移動時間は2時間半のうちに入れられる。発注を送信するのが遅れたら、チームリーダー経由で倉庫からお叱りの連絡が来る。あれは苦手だったなぁ…。
そしてある店舗でまさかの、佳苗のお母さんがいた。朝、スタッフだけのバックヤードを抜け、売り場のチェックを始めると、佳苗のお母さんが走って来た。大きな声で言ったのである。"また佳苗と遊んであげてください!"その場が静まり返ったのは言うまでもない。私はただ曖昧に笑って返した。正直、怖かった。佳苗のお母さんはそれだけ言い、返事をするわけでもなく、走って行ってしまった。
当時は過保護ってこういうことなのかな?それぐらいにしか思ってはいなかったのだが。
佳苗自身は穏やかで優しい人だった。落ち込んだ時は愚痴に付き合ってくれたし、一緒に音楽を聴いたり、好きなアーティストやテレビの話で、家に帰ってもメールをして話したぐらい、好きだった。
やがてお互い社会人になり、あまり会わなくなったが、お互いいい人に出会い、付き合い始めた。
そうそして、冒頭の、落ち込むことがあったから会いたい、という話につながる。
喫茶店に入ってからはずっと学生時代の話ばかりだったーー構わないのだが、もう卒業していくらも経つ。他の話題もあるのに佳苗はなぜか、時間が経つほどにこの話題に固執しているように思えた。
しかし何よりもーー違和感があった。どことなく本能的に引っかかるのだ。なぜか、一緒にはいたくない、と。
この答えは帰り際に分かった。何気ない話題ーーあまりにも些細なことだったので内容は曖昧だが、いつものように気楽に冗談を言った。佳苗はアイドルでもおかしくないぐらい、昔からスタイルがよく、私は普通体型もかなり普通。いつもかわいい洋服を着てくるので、確か、洋服を褒め、私には似合わない、それぐらいを言ったはずだが、けらけら笑うかと思いきや、佳苗は、はん、っといっぺん鼻で笑い、びっくりして顔を見ると見たことないぐらい厭な顔をしていたわけである。人が人を見下す時、こんな顔をするのをドラマなんかじゃ見たことあったけど…。それ以来、佳苗とは距離を置いた。私はあんな意地悪な顔で笑う人は知らなかったからだ。
付き合う男のせいではないかもしれない。人は変わる。紀貫之も言ったではないか、人の心はいざ知らず、ふるさとは花ぞ昔の香に匂ひける、と。これがこんなに沁みる日が来るとはつゆほども思っていなかったが。
私の心が狭いのかなぁー、思い込みかなー、んー、まあいいか。まあよくないが、畳み掛けるように彼氏が言うわけだ。付き合う男によって女の子はいくらでも変わっちゃうよー、と冗談めかして。私はあまり笑えなかった。
おんなともだち バーニーマユミ @barney
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