光闇の姉妹
七乃はふと
飽き性な姉と一途な妹
ある時、全てを覆う光が輝きました。光はほんの一瞬で、深い闇だけが残りました。
目覚めた闇は、真っ暗な空間に向かって声を上げます。
「誰かいませんか」
声に応えるものはいません。仕方なく闇は応えてくれる存在を求めて移動を始めました。目前に広がり続ける闇に何度呼びかけても反応はなく、進めど進めど一向に闇は晴れません。
動く事に飽き、その場に蹲っている時でした。
遠く視界の端に小さな光を見つけたのです。闇は重い腰を上げて駆け寄りました。
光は掌に収まるほど小さくかぼそい灯りですが、初めて見た明るさと、ほんのりとした暖かさに思わず冷えた頬を寄せます。
頬擦りしていると、耳元に声が届きます。
「姉様」
闇は姉様の意味を知りませんでしたが、自分が頼りにされているのが分かりました。二人は一緒に暗闇の中をあてもなく歩いて行きます。
相変わらず闇の進む先は真っ暗ですが、光が淡い輝きと蝶のような動きを見せてくれるので、闇はにこやかな気持ちで歩いて行けました。
けれども、闇はまた座り込んでしまいます。
休まず歩いても、一向に変わらない景色。光がどれだけ励ましても立ち上がる気になれず、いじけて膨れっ面。
そんな姉の力になりたい光は、自らの内側からたくさんの光の粒を真っ暗な闇に散りばめました。
更に自分達姉妹を参考にして大小の光の球を生み出したのです。
闇は暗闇に瞬く光の群れに大興奮。披露してくれた光にお礼を言うと二人で名前をつけていきます。
小さな光の粒は星、大小の大きい方を太陽。小さい方を月と名づけました。
暫くは宝石のような輝きを見上げていた闇ですが、次第に見飽きてしまい退屈な気持ちが強くなっていきます。姉の気持ちに気づいた光は、違うものを見たい闇のために、大地を作ります。
大好きな姉の姿を参考に二本の手足をもつ人を生み出しました。それぞれ、火、水、草の民と名付け、姉にプレゼントします。
闇は新しい存在に大喜び。それぞれの民ごとの生き方だけでなく、一人一人の行動は闇の瞳を磁石のように惹きつけました。
見ているうちに、闇も人を作ってみたいと考えます。出来上がったのは影のような人形。出来栄えを気に入った闇は作り上げた人形と共に、光が止めるのも聞かずに降りていきました。
闇が人々に遠慮なく近づくと、彼らは動く影の存在に恐れ慄き、住処に閉じ籠ってしまいました。
この態度に姉は怒り、人形に命じて、家の扉を力任せに開かせます。
住処を追われた人達は一致団結。戦仕度を始めてしまいます。
火の民の鍛えた武具、水の民が得意とする魔法、そして草の民が用意する豊富な食料と準備万端。
敵意を向けられた闇は人形達に命令し、人々と戦争を始めてしまいました。
勝敗は闇の圧倒的勝利。人形達には、武具も魔法も効かず、豊富な食料も奪われてしまいました。
惨状を憂いた光は、争わないようにと、姉を説得します。
闇は奪った木の実を食べながら向こうが謝るまでやめないと言うと、人に肩入れする光を閉じ込めようとしました。
光は逃げ、姉と共に名付けた星々の傍らで泣き続けていました。その間にも闇は魔の手を伸ばし、大地が暗闇に覆われていきます。
姉を止めたい。その一心で光は涙を拭うと、持てるすべての力を使って世界に降りたちました。
輝く剣の姿として。
闇の人形達が奪おうとしますが、強い光に耐えられず消えていきます。お日様のような光を発する聖剣の柄を握りしめたのは、人の勇者でした。
勇者と光はお互い協力し、ついに闇のいる場所に辿り着くと、剣身から眩い光を放ち、愛する姉を暗闇の彼方に封印しました。
こうして世界は平和を取り戻し、光は使った力を取り戻すため永い眠りにつくのです。姉と過ごした幸せな日々を夢見ながら。
光闇の姉妹 七乃はふと @hahuto
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