1-6 「排水路 目覚める星屑」
漆黒に染まった下層。
鉄骨が折れた高架の下、舗装が割れ、濁った水がたまっていた。
男たちの持つライトが水面に反射し、ゆらめく。
金属のブーツが水を踏み、音が狭い排水路に響いた。
瓦礫の奥で、かすかな光が漏れている。
一人がしゃがみ込み、ライトを向けた。
倒れた鉄骨の隙間には、半透明の培養槽。
白い液体の中には、小さな赤ん坊が沈んでいた。
細い指がゆらりと浮かび、胸がかすかに上下している。
「目標を発見」
先頭の男が無線で報告する。
背後から別の男が駆け寄った。
合計四名。
全員が黒い装備をまとい、肩の装甲には塔の紋章。
「ゼウスからの命令を忘れるな。対象は必ず回収する」
「了解。……生死は問わず、だったな」
「俺たちは従うだけだ。塔兵に逆らう権利なんてない」
声に迷いはなかったが、その静けさが逆に冷たく響いた。
二人が培養槽のロックに工具を差し込み、固定ボルトを外し始める。
金属音が夜の排水路に響いた。
その瞬間、培養槽の中でナユタの瞼が開く。
瞳の奥で、星屑が淡く動き出した。
ロックが、爆発もなく弾け飛ぶ。
青白い粒子が霧のように広がり、ヘルメットのライトを反射して空気を白く染めた。
「なっ!」
男が腕をかざすより早く、粒子が胸部装甲を叩いた。
音はない。
体が後方の壁に叩きつけられ、荒い息だけが漏れる。
粒子は空気に散らばらず、培養槽の上空に集まり、球状に浮かんだ。
ナユタの瞳から光が完全に消え、透明な水晶のようになる。
残った三人が銃を構える。
だが照準を合わせる前に、粒子が動いた。
手首、足首、銃口を打ち、全員が地面に崩れ落ちる。
意識はある。
だが、体はまったく動かない。
排水路の奥から、ゆっくりと足音が近づいてきた。
暗がりの中で、アザゼルの手に握られた装置が淡い赤の光を点滅させている。
その光が、倒れた兵士たちの装甲と培養槽の水面に反射して、赤い筋を描いた。
排水路の静寂を裂くように足音が止まり、彼の視線が培養槽と浮遊する粒子に向かう。
光の揺らぎを受けて、仮面がわずかにきらめいた。
アザゼルはゆっくりと足を止め、培養槽を見下ろす。
仮面の奥から視線が落ちる。
低く、乾いた声が排水路の壁を伝って響いた。
「……これが“人形”の力か」
粒子がわずかに揺れる。
培養槽の側面ランプが淡い青色に変わった。
同時に、アザゼルの装置のインジケーターも青く輝く。
反応は、完全に一致していた。
排水路には、男たちの荒い呼吸と、粒子が擦れ合う微音だけが残った。
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