精神力化け物の最弱が、全てを掴むまで。

@Shititentaiki

第1話 全国中継。世界一のおおうつけと呼ばれる

「皆様の、心よりのご活躍をお祈りします」


国の偉い人達が、次々と謝辞を述べる。

皆が緊張して固まり、体が震えるものもいる中、俺はあまりの寒さに、尿意を催していた。

会場は春にしては肌寒く、中には、手を挙げてトイレに行く者もチラホラいたが、そういう連中は、相応にしてバカにされるものだと、俺は散々聞かされていた。

俺の実家は名門、黒土家で、代々強い力を持つ人間が生まれている、国内でも有数の家柄だった。

そういった、周りや家族からの期待がある以上、当然、俺はトイレに行きたいなどと言えるはずもなかった。


そうして、次々と会は進んでいき、俺は、早く終わってくれと、逸る気持ちを抑えてなんとか尿意を堪えていた。


「最後に、今年、この新入生で一番の成績を収めて入学されることになっている、神裂黒姫さんに、今年度の新入生を代表して、挨拶をお願いしたいと思います」


皆が壇上に注目する中、俺はそれどころではなかった。もう、我慢の限界だった。

血走るような目で、早く終われと祈っていると、そんな俺とは正反対に。悠然と歩いてくる、美しい女性が、見事な所作で壇上を上がっていく。


輝くシルクのような、綺麗な肌。美しくたなびく黒髪。頬の左横には、可愛らしい三つ編みが施されており、それが彼女の気品と可愛らしさを見事に中和させている。

しかし、目は黒々と深淵を除くような暗い印象を持たせるような瞳で、顔は表情を伺わせない、能面のような微笑みを称えている。


彼女の言葉に皆が耳を傾ける中、俺はついに我慢しきれなくなって、手を上げる。

皆、一斉に俺の方を向く。


「す、すみません。お、お手洗いに……」


しかし、誰もが俺に冷たい視線を向け、周囲は無反応。

そして、ここで、俺は力尽きてしまう。


なんと、その場で尿を漏らしてしまったのである。


広がるアンモニア臭。

周囲の失笑。

後ろで控えている親兄弟が、酷く見下したような目で見ている。その後ろに、3つ上の兄、黒土御門が、何か手を動かしながら笑いを堪えている。


全て繋がった。これは、あの御門兄さんの人体操作術で、俺の尿意を操っていたのである。


式は唖然とし、やがて、1人が笑いだし、大勢が笑い出す結果となり、由緒正しき祭典は、世界屈指のお笑いの動画として、全国中継され続けている。


やがて、黒服を着た人達が、僕の周りに黒い布を被せ、簡易トイレと着替えを用意してくれる。


正直、死ぬほど恥ずかしかったし、もう終わったと思った。


学園入学初日にこれなら、もう、どうしようもない。

ただ、家柄の影響もあってか、周りの大人の厳しい目線もあり、笑いは徐々に治まっていった。


しかし、事件はまだ続く。

壇上に上がった神裂黒姫は、こともあろうことか、マイクを使って盛大に笑い始めたのである。


「まさか、この由緒正しき盛大な式の途中で、あの黒土家がおもらしをするなんて、アッハッハッハッハッ。キミ、道化師のスキルでも得るんじゃないか?」


瞬間、大人たちも、ついに堪えきれなくなったのか、笑いを堪えきれずに吐息を漏らし、もう会場はめちゃくちゃになっていた。


後ろを振り向くと、流石にやりすぎたと反省したのか、御門兄さんは素知らぬ顔で、顔を背けている。


父さんは失望の表情を浮かべている。


最悪だ。まさか、壇上に登った神なんとかさんにまで笑われるなんて。


これは一生もののトラウマだ。


まあ、僕はこれでも黒土家だし、この後の精密検査で自身に宿っている力も判明する。


その後の式も唖然としながら、項垂れてただ式が終わるのを待った。


その後、式は終わり、新入生が、続々と校舎へと移る中、俺は周りにひとしきり笑われ、バカにされながら検査室へと歩いていく。


「あいつ、漏らしたやつだろw 全国放送でやらかすとか、一生モノの恥だろ。もうこりゃあいつの人生も終わったな」

「まあまあ、笑えるのはここまでだな。何せ、あの名門の黒土家だからな。能力しだいで勝ち上がるかもしんねぇぜ? まあ、そもそも、能力ってのはこれまでの生き様が反映されるみてぇだし、あの場で漏らすような人間なら大した力なんて持ってねぇだろうけどな笑」


スマホを見てみれば、ネットは俺の話題で持ち切りだった。国内有数の恥さらしだの、色々と好き勝手書かれている。


この学園は、国内有数のダンジョン探索者訓練校である。本来、ダンジョンに適性のある人間は限られており、その中でも指折りの、期待された人間が集まる場所なのである。


事前に、生徒一人一人に期待値と呼ばれる、国民や生徒同士の監視で決まる数値の順番で、精密検査室に呼ばれるのだが、スマホを見ると、俺の数値は12だった。

未だかつて、退学者は出ていないこの学園だが、この数値が0になると、退学になるという規定が、実際に校則にて定められている。

背に冷や汗が伝う。


学内順位は、まさかの最下位の760位。

俺は、もう泣きたくて仕方ない気持ちだった。


ひとまず、スマホの通知が来るまで、部屋で待っていようと思い、俺は、男子寮の中でも、一人部屋の個室がある部屋へと向かった。


個室部屋がある場所は限られており、ここは、名家が集まるA棟で、俺は、誰よりも早くそこにたどり着く。


そうして、こそこそと荷物を降ろし、ひとまずベッドに腰を下ろす。


時間だけが酷々と過ぎていき、俺は、スマホのアラームが鳴ったのを確認して、検査室へと足を進める。時刻は、夕方の16時であった。


部屋を出ると、男子生徒2人ほどが談笑しており、俺はフード付きのカーディガンを目深に被り、そそくさとその場を後にする。

向こうは俺の存在が誰だか分かっていなそうだったので、何やら話したそうだったが、俺は呼びかけの声に軽く会釈して、検査室へと向かった。




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