オネエ神官と守銭奴竜人~第X話:牛丼屋アドンは見た~

@usagi_racer

第X話 牛丼屋アドンは見た

 屋台で営業して、はや数年。

 いよいよ俺も、屋台を卒業して、店を構えることができた。

 赤色と黄色とオレンジ色の看板に「牛丼屋アドン」の文字。

 ガラス張りの出入り口に、大きな窓のついた客席。

 コの字型のカウンター席と、3つのテーブル席。

 シンプルな牛丼に、選べるトッピング。

 コンセプトは、うまい、やすい、はやい。


「ふぅー……っ」


 緊張してきた。

 ちゃんとウケるのか?

 屋台では成功していたのに、店を構えたとたんにコケるなんて事になったら、目も当てられない。

 だが、もうすでに、開店は今日だ。

 どんな結末になるか……さあ、かかって来やがれ! 営業開始だ!


「……うん? あれはオドンたちじゃねえか?」


 ガラス張りの出入り口から、外を歩く6人組が見えた。

 オドンたちとは顔なじみだ。だが、あいつらは4人組のはず。

 一緒にいる2人は誰だ?

 少なくとも……只者じゃあねえな……。

 Aランク冒険者のオドンたちが、霞んで見えるほどの化け物だ。

 何なんだ? まるでドラゴンが人間に化けて歩いてやが……うん? 肩にちっちゃいドラゴン乗ってね?

 ああ、そして女のあの頭……角が生えている。サンゴみたいな形のあの角は、竜人の証だ。なるほど強いわけだな。でも男のほうは何者なんだ? 見たとこ人間のようだが。


「……ほら、見えてきたわァん。あれよ」


 とか言ってんだろうな。

 女装オカマのモリーがこっちを指さしている。

 6人と1匹が、こっちへ向かって歩いてくる。

 入店する気か? オドンたちが知り合いを連れてきたって感じか。まあ、開店初日だ。ご新規さんが増えるのは嬉しいが……畜生め、牛丼屋としてきちんと振る舞わなきゃあな。内心あの2人が気になって仕方ねぇが。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」


「6人よ」


 セミロングの髪を後ろで束ねた男が答えた。オドンたちが連れてきたのに、オドンたちをリードする立場なのか。しかし実力を見れば、それも当然だろう。

 やべえ男だ。まずは服装がハンパねぇ。オドンたちは最高ランクの冒険者なのに、それが比べ物にならねぇほど上等な服装だ。デザインは法衣に似ているが、教会のものとは違うな。うーん……なんか、どっかで見たことがあるような気が……。

 腰にはメイスをぶら下げている。これもハンパねぇ。どんな素材だよ? それひとつで城の2つや3つは買えるんじゃねえか?

 それにしても、こいつ……男が、だ。「6人よ」だと? こいつもモリーの仲間か? オネエか? オネエなのか? 見た目がモリーよりもうんと「普通」で爽やかな感じなのが少し救いっちゃ救いだが……なぜオネエなんだ……そこは別にノーマルの男で行きゃあいいだろ。なぜわざわざ……。


「あちらのテーブル席へどうぞ。

 ご注文がお決まりになりましたらお声がけください」


「大盛り、ネギだく、ギョク。

 あんたたちは何にする?」


 なにィィィーッ!? そ、その注文は、伝説の……!

 50円引きとかやってねェからな!? よーしパパ大盛り頼んじゃうぞー! じゃねーよ! 来たのか!? こいつ「そこ」から来たのか!?


「はい、お待ちどおさまです。大盛りネギだくギョクのお客様」


「アタシよ。ありがとう」


 オネエじゃねーか! オネエ確定じゃねーか! モリーの仲間じゃねーか!

 何なんだ? 多様性バンザイってか?

 てゆーか、ちびドラゴンめ、俺の牛丼をおひやで洗って食ってやがる。魔物風情が俺の味付けを気に入らねえと? ……ああ、くそ。うまそうに食いやがって。チッ、怒るに怒れねえじゃねーか。


「バランさんのお兄さんのアドンさんかしら?」


「はい? ええ、そうですが……」


 さっさと食えェ! 食って出ていけェ! 絡んでくるなァ! ますます気になって仕事が手につかねェだろーがァ……!


「やっぱり。

 アタシ榎。Aランク冒険者よ。こっちはメンバーのマックスと、従魔のルナ。

 あと今回臨時でご一緒してる別パーティーの面々よ。

 豚ダンジョンの街ではバランさんのサンドイッチ屋にお世話になったわ。バランさんから聞いて来たのだけど、屋台だと聞いてたのにお店を持ったのね。おめでとう」


「それはどうもご贔屓に、ありがとうございます。

 弟は元気にしておりましたか?」


 豚ダンジョン……マックス……それに、エノキ?

 こいつらか! 豚ダンジョンをクリアした冒険者ってのは!

 次はこの街で牛ダンジョンをクリアする気だな!? 大々的にクリアを宣伝しやがって! クリア報酬のヤバさを分かってねえのか!? 世界がひっくり返る代物だぞ!?

 ああ、でも……こいつから「奪う」ってのは、ドラゴンが束になっても無理だろうな……俺が全力でも、こいつの防御力を突破できる気がしねェ。なら、まあ、むしろ安全地帯なのか。こいつら自身がバカな使い方をしないでくれりゃあいいんだが……。


「ええ、それはもう。毎日大繁盛で忙しそうだったわ。

 あちらもすぐにお店を持てるんじゃあないかしら」


「結構なことで。

 開店準備に忙しくて、このところ手紙も出してやれませんでしたので、弟はまだ知らずにいたんですね。今度また手紙を出すことにします」


 そうか。バランのやつは元気なのか。

 出会ってから一緒に過ごしてきた相棒にして、義兄弟の杯を交わした弟分。

 屋台を始めてしばらくは一緒にやっていたが、いわゆる「暖簾分け」ってやつでバランはサンドイッチ屋を始めた。あいつが豚ダンジョンに移っていったあとは、2年ばかり顔を見てねぇな……。来週あたり店を定休日ってことにして、久しぶりにバランのツラぁ拝みに行くか。


「この街ではこちらにお世話になるでしょうね。

 故郷にも牛丼屋はあったから、よく朝食を食べに行ってたのよね。この遠い異国の地で同じものが食べられるなんて……バランさんの話芸もそうだったけど、あなたたちって本当にアタシの心にぶっ刺さるわね」


 バランの叩き売りは上手かったからなぁ……。

 元気でやってるなら、そっちも磨きがかかってんだろうな。


「それはどうも、恐れ入ります。

 どうぞうちもご贔屓に願います」


「ええ、よろしく」


 別の客が来た。

 話はここまでだ。仕事に戻らねえと。

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