第4話
今日は一日中、雨が降っていた。
梅雨に入ってからというもの、雨の日が増えている。
瑠奈はいつものように、図書館の窓際の席に座っていた。
外では雨音が絶え間なく続いているのに、館内は不思議なほど静かだ。
ノートを開いた、そのとき。
「あれ? 今日は一人じゃないんですね」
顔を上げると、白夜が立っていた。
そのすぐ後ろに、見覚えのない二人の姿がある。
「ええ。今日は少しだけ、特別なゲストをお連れしましたよ、琉奈さん。
こちらは蓮くん、こちらが蓮華さんです。姉弟なんですよ」
二人は戸惑った様子で、軽く会釈をした。
その瞬間――
琉奈の胸の奥が、ひどくざわついた。
「……白夜さん」
自分でも驚くほど、声が低くなる。
「私が今日書こうとしていた場面に出てくる姉弟に、
あまりにも、そっくりなんですけど」
白夜は一瞬だけ言葉に詰まり、
「ああ……そうでしたか」
と、曖昧に答えた。
「それに」
瑠奈はノートを閉じ、白夜を見据える。
「白夜さんも、このお話に出てきますよね。
最初は名前を借りただけでしたけど、あまりにもあなたにそっくりです
し。
……どういうことですか?」
白夜は、困ったように笑った。
「……驚きませんか?」
「驚きますよ」
即答だった。
「……じゃあ驚いてもいいですけど。
それで、嫌いになりません?」
瑠奈は少し考えてから、はっきり言う。
「わかりません。
でも、話してもらえないなら嫌いになります」
静寂が落ちた。
雨音だけが、窓の外で続いている。
白夜は小さく息を吐いた。
「……では、お話ししましょうか」
その声は、どこか覚悟を帯びていた。
「あなたがいなくなってから、
三千年のあいだに、私に何があったのかを」
「あのう……」
控えめな声に、琉奈が振り向く。
「どうしましたか……蓮さん、でしたっけ」
「はい。白夜さんに連れて来られたんですけど……
正直、何が起きているのか、全然わからなくて」
「……そうですよね」
瑠奈は一度白夜を見てから、二人に向き直る。
「ごめんなさい。
どうやら、私もまだ整理がついていないみたいです」
白夜は、ゆっくりと頷いた。
「すみません。
今から、すべて説明いたします」
そう言って、白夜は語りはじめた。
――三千年に及ぶ旅の記憶を。
失われた名と、守り続けた約束を。
雨音に包まれた図書館で、
時間は静かに“過去”へと沈んでいった。
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