初心者だった私、ステータスバグで最強になる

塩塚 和人

第1話 はじまりは最弱

 目を開けた瞬間、ミナは「終わった……」と思った。


 草原。青い空。いかにもファンタジーゲームで見たことのある風景。

 そして目の前に、半透明で浮かぶウィンドウ。


【ステータス】

名前:ミナ

レベル:1

HP:10

MP:5

攻撃力:1

防御力:1

敏捷:1

スキル:なし


「……ぜんぶ1?」


 思わず声が漏れる。

 ゲームが好きで、いろいろ遊んできたけれど、ここまできれいに“初心者”な数値は初めて見た。


 試しに拳を握る。力は……正直、あまりない。

 近くで「ぷるん」と音を立てて動く、青いスライムを見つけた。


「えっと……あれ、たぶん一番弱い敵だよね」


 おそるおそる近づき、木の棒でつつく。


 ――べちっ。


 スライムは少し揺れただけで、反撃として体当たりしてきた。


「いった!?」


 HPバーが一気に減り、残りは3。

 たった一撃で瀕死だ。


「無理無理無理!初心者すぎる!」


 ミナは慌てて逃げ出した。

 足も遅く、転びそうになりながら必死に走る。


 安全そうな岩陰に隠れ、息を切らしながら座り込む。


「……どうしよう。武器もないし、スキルもないし」


 もう一度ステータスを開く。


 その瞬間――画面が、ほんの一瞬だけ歪んだ。


 数字が重なり、文字が崩れ、見慣れない記号が走る。


「え?」


 次の瞬間には、何事もなかったかのように元の表示に戻っていた。


「……見間違い?」


 首をかしげながらも、ミナは深く考えなかった。

 今はそれより、生き延びることが最優先だ。


「とりあえず……スライム以外の弱そうなのを探そう」


 彼女は知らない。

 その一瞬の“歪み”が、世界の常識を壊す始まりだったことを。

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