吹雪

光雨

吹雪

1、仕舞う風鈴


凛とゆっくり鳴る風鈴のような風が流れていた


蝉も一息ついてきたところ


もうあまり鳴いてはない 


お昼時の空


汗はやっぱりまだ少しかいちゃうけれど


あぁ、やっぱりなんか不思議


27度って意外と涼しいね 


うそ、ほんとはまだちょっと暑いわね


私がそれ以上に包まれていたあの日々


賑やかに空の下


風鈴がアルバムをめくるように揺れて


人のいない砂浜に静かな渚


今年最後の花火祭り


あぁ、夏が終わるのね


6時半過ぎに汗が引いていく夕暮れ


見上げた先はそんなに広くない


筆洗に付した水彩絵の具の水色と赤


そんな消えゆく夕空に


色を重ねて想うのは遠くにいる彼のこと


誰と思い出を綴ったのかな


それは私とのものよりも価値があるかな


あの頃の夏、その代名詞は


私との思い出でなければ嫌よ


気づけば瀬戸際、すぐに始まり終わる夜長月


信じるには恐ろしいけれど


あと4ヶ月で今年が終わる


暑さに辟易していたかと思えば


もうそれだけなんて


季節も人生も


私が思う以上に


短命で脆いらしい



2、秋の面紗


部屋に流れてきた風が爽やかでした


カーテンは秋の香りを纏ったオーロラのように


優しく揺れていたのです


涼しい日が多くなって


開けた窓がクーラーになって


夏ほど青くはないけれど


待っていた晴れがやってきました


ただ、冬が焦って


朝だけ顔を見せる日があります


それでも、もうずっと涼しく爽やかで


木々や山も嬉しくって


四方表情豊かです


そんな彼らの輪郭に縁取られる


夏より早い夕暮れは


前より紅緋に感傷で


言葉が形にするのを諦めるほど


夏よりも切なく感じるその空の下で


また、貴方のことを想います


貴方も私のことを考えているでしょうか


私のことで胸が苦しいのでしょうか


そうだと良いな


日を追うごとに


愛想を尽かして素っ気なく沈んでいく太陽に


桜よりも早く散る紅葉と


冬が来るのに、隣に誰もいない焦燥


暮れゆく秋とは実に


侘びしいものです


独り身の風通しの良さ


それが冬風に煽られて


どうにも冷たく感じます


貴方は誰とあの日を過ごすでしょう


ずっと向こうに恋の一線


遠方を見る私の上の空


藍と濃緋が徒然に


あえかな濃淡の面紗を下ろしました



3、雪縹


夜の四肢は深縹


逃れて行くのは夏秋の緋


昼七つの雲


波の裏


風の来た道


暗い山


涙も凍る


おもい冬


朝に曇天


陽の無い光


葉叢を落として雪化粧


泥もブライド


それも素敵なアイロニー


回る足裏


雪の反作用


人を煽り


選び始めた街の『冬』支度


あの日に灯る


その骸


風通しの良いスケジュール


彼女は誰と埋めるだろう


ずっと独りで季節を泳いだ


あの人を選ぶその夢は


もう叶わないと知っている


誰でも良いわけではない


でも誰か


僕の頬に吹き荒ぶ


冬の凍風を凪いでくれ


傘に積もりゆくこの重力


握る手のない無沙汰を埋めて


『雪が降り止まない限りはね』


そんな白々しい恋はもうやめてほしい



4、きせつ


人は季節を


季節たらしめる


ただ変わりゆく自然に


幻想という名の意味を重ねている


故に本質は雪にない


街に灯る、星を隠す光にもなければ


秋に咲く桜にもない


全て口実、飾り物


恋の一線


その巨壁を越える為の動機に過ぎない


本当の目的は


街のイルミネーションなんかじゃない


貴方と過ごしているという実感


共に流す時間と肩を並べる空間


触れ合う肌で体温を感じ合い


意味づけた四季の一角に惚ける


煩悩の色が冬なのだ


人は季節を


季節たらしめる


それはどれだけ


窮屈で汚いものか


泥天の泥雪か


愉悦と優越


痛みを忘れた傲慢と高慢


煽られ、踊り、厭世な嫉妬


故に独りを嘆く夜の風


それらが荒ぶ冬は醜い 


私を吹雪くのは雪だけでよい


それ以外はいらない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吹雪 光雨 @HikaRi_aMe

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画