異世界ストリーマー勇者~最強すぎて冒険も日常も全部生配信したら全世界が俺の信者になった件~

@tamacco

第1話 女神のスキル授与と最低の初配信

……気がついたら、空の上だった。


いや、正確に言えば「めっちゃまぶしい金色の空に浮かぶ大理石の神殿の中」だ。

目の前には、銀髪ロングに白いドレス、頭の上で光る輪っか――どう見ても女神みたいな人が、こっちを見下ろしていた。


「ようこそ、異世界イリュディアへ。あなたは選ばれし勇者です」


「……え。それ、マジで?」


「あら、ご不満ですか? 異世界転生って、あなたの世界では人気なんでしょう?」


「まあ、確かに人気だけどさ……。俺、死んだ記憶ないんだけど?」


「通勤中にトラックに轢かれました」


「あー……やっぱりか。テンプレだな、おい」


どこか他人事のように納得してしまう自分が悲しい。

それにしても、唐突に“勇者”とか言われても困る。普通ならテンション上がる展開なんだろうけど――この女神、なんか軽い。


「というわけで、勇者としてスキルを授けます。あなたの固有スキルは……」


女神は、手にした水晶玉をキラリと光らせた。

頭の中に、機械音声みたいな声が響く。


【固有スキル:《ライブストリーム》を授与します】


「……は?」


「説明しますね。《ライブストリーム》は、あなたの活動をリアルタイムで全世界に配信できるスキルです」


女神はにっこり笑ってそう言った。

いや、説明されても理解が追いつかない。


「配信って……。YouT〇beとかTwi〇chみたいな?」


「ええ。映像と音声を魔力で発信します。誰でもあなたの冒険を視聴可能です」


「冒険を……配信? え、それでどうやって戦うの? 戦闘系じゃないの?」


「人気を得れば得るほど、“視聴者の声援”が力に変わります」


「声援? まさか、それが攻撃力とか魔力になるの?」


「その通りです♪」


軽く指を鳴らした瞬間、俺の頭にスキルの使用説明が流れ込む。

……え、マジで「コメントが力になる」って何このバラエティ番組みたいな仕様。


「ご武運を、勇者様。ちなみに、登録者ゼロの状態ではほとんど何もできません」


「え、ちょ、待っ……!」


世界がぐにゃりと歪む。

次の瞬間、俺は草原の真ん中に立っていた。


*****


「……異世界配信者って、ジャンルとして成立するのか?」


見渡す限り、見渡す限り、どこまでも青い空と緑の草原。

目の前には、かわいらしい村が見える。チュートリアルっぽい。


俺の腕には、小さなクリスタル端末が埋め込まれている。

画面にはこう表示されていた。


【配信準備OK】

【登録者:0人】

【現在のマジックWi-Fi:安定】

【バフ効果:なし】


安定じゃねーよ。俺の心が不安定だわ。


「……とりあえず、試してみるか。」


俺は念じるようにして《ライブストリーム》を起動する。

目の前に半透明のウィンドウが浮かび、カメラアングルを調整するオプションが出てきた。


「えっと……これで“開始”っと」


【配信を開始しました】


「お、おおお、始まった。……見てる人、いる?」


数秒後、コメント欄が出る。

【コメント:0】


「……まあだろうな。」


とりあえず自己紹介でもしておこう。


「どうもー、異世界に転生してきました、元日本人の篠崎迅(しのざきじん)でーす。スキルが配信っていう謎仕様でーす。……よろしくお願いします」


虚空に向かって叫ぶ勇者、なかなかの絵面である。


「このスキル、マジで戦闘とかできんのかな。試しに――」


そのとき、近くの茂みがガサリと動いた。

青いスライムがぴょんっと飛び出してくる。


「おお、スライム。異世界らしいやつ来た!」


試しに棒切れを拾って構えるも、戦闘スキルなんて無い。

スライムがぴょんと近づいてくる。

ぬるっとした感触が足に絡みつき、地味に痛い。


「やばい、普通に負けそう。誰かー、助けてー!」


もちろん、コメントはなし。

俺は転げ回りながら、情けなく棒を振り回す。

しかしその途中、配信ウィンドウに小さな光が点いた。


【視聴者:1人】

【コメント】「頑張れ!」


その瞬間、体の奥で何かが弾けた。

体が軽い。視界が冴える。

スライムの動きがスローモーションに見えた。


「……これが“声援バフ”か!」


勢いのまま棒を振り抜く。スライムが泡となって消えた。


【スライムを討伐しました】

【称号:初めての視聴者と共に】を獲得!


「やった……! 一人でも見てくれてるなら、なんか報われる……!」


その直後、通知音が鳴る。


【登録者:1人】

【視聴者のコメント:「これ面白い、続けて」】


「ありがとう、見知らぬ誰か! 俺、やる気出てきたぞ!」


初めて手にした魔石の欠片を掲げて叫ぶ。

空の向こうで、女神がニヤリと笑った気がした。


*****


それから一週間。


俺の配信スタイルは、徐々に整ってきた。

食べ物を見つけて実況したり、モンスター退治を配信したり。

コメントは少しずつ増え、登録者も数十人になった。


村人からは「変な独り言を言ってるやつ」と呼ばれてるが、気にしない。

しかし――問題が起こるのは、いつも急だ。


村のギルドで、リアルに試験官に言われた。


「勇者を名乗るなら、パーティに加入しろ。孤立者は登録拒否だ」


その場には、同じくチュートリアル組のパーティがいた。

その中には、俺の前世での同級生・伊堂(いどう)の姿もあった。


「よう、篠崎。まさかお前が勇者スキル持ってるとはな。で、何のスキルなんだ?」


「……配信」


「ぷっ。……はは、マジで? そんなんで戦えるのかよ」


周囲から笑いが漏れる。

伊堂の背後には、剣士の美女。魔法使いの双子姉妹。

女神補正かよってくらい美人揃いだ。


「まあまあ、いいじゃねえか。お前は俺たちの討伐動画でも撮ってろよ」


「誘ってるようで地味に煽ってるな」


「ハハハ、冗談だよ。……でもマジで、邪魔になるだけだからさ。別行動で頼むわ」


拒絶。

それでも俺は笑ってその場を去った。

胸の奥で何かが燃え上がるのを感じながら。


「よし……今日の配信タイトルは、“勇者パーティから追放された件”でいくか」


【配信開始】

【視聴者:12人】


──異世界で最弱スキルを押し付けられた俺の、逆襲配信が始まる。


*****


草原を駆けながら、俺はつぶやいた。

「見てろよ、伊堂。いつかお前の名前でサジェストが埋まるくらい、俺がバズってやるからな。」


空の下、無数のコメントが流れ始めた。


【がんばれ!】

【面白い!】

【こいつ、なんか伸びそう】


そのとき確信した。

このスキルはクソ弱いと思っていたけど、見方を変えれば最強だ。

限界まで“見られる側”になれば、俺はこの世界で頂点に立てる。


さあ、次は異世界初の“本格冒険実況”だ。

勇者ストリーマー・篠崎迅の名が、ここから始まる。


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