今日のお昼は何たべよう
羽衣
第1話 迷っても、麻婆豆腐
「年末年始は暴飲暴食しないようにね」
久しぶりに会った先生はにこやかに言う。
今日は通院で久しぶりに都内にやってきた。
病院はいつも混んでいるけど、だいたい昼過ぎには終わるので、さて!この後何食べよ!とお昼ごはんの算段で待ち時間も困らない。
実はこの近くに、以前から気になっている中華店があるのだ。地図アプリの写真は、高そうなコース料理が並ぶが、ランチ御膳なら敷居は低そう。特に土鍋の麻婆豆腐がビジュアルも魅力的だ。
いそいそと病院を出て、ビルの谷間の道をお店に向かう。いわゆるオフィス街ではなくて、病院や大学の密集地帯なのだ。目指すお店はその一角にある黒い壁の民家だった。
まだ12時前だけど数人待ちだ。思った通り雰囲気のある店構えだが、メニュー看板でランチ御膳の値段にほっとしつつ、しばし待つ。
扉を開けて感じのいいお兄さんが案内してくれた。「1名様、お二階へどうぞ!」
入り口は玄関で、靴を脱いでスリッパに履き替える。そういえば、表札もあったから、ほんとに民家なのかも?なんだか勝手に親しみを感じたりしてワクワクしてきた。
ブルースリーの絵画の飾られた階段を上ると、テーブル席に通してくれた。部屋は多分4部屋くらいあったものを仕切りを外して広く取っているよう。オーク色の木の温もりのある内装だ。窓からの風景はビル街なのに、なんかここ、ほっとする!
さて、ランチを選ぶ時間がやってきた。
パリパリ鶏や担々麺、酢豚にも目移りしてしまう。けど!私は麻婆豆腐を選ぶ。だいたい迷ってる風にメニューを上から下まで読むが、やっぱり最初は麻婆豆腐が食べたい。
ジャズが流れる店内は落ち着く空間だった。何度も通院でこの辺に来ていたのに、なぜいままで来なかったんだ…!運ばれていく他の人のお料理をチラチラ見ながら『次回はあれもいいな』などと、気が早い次の予定を妄想していると、お姉さんが麻婆豆腐御膳を運んできてくれた。
おお!土鍋でグツグツの麻婆豆腐、麗しい。
卵のスープと和物の小鉢と、白いごはん。はやる気持ちをスープで潤してから、いざ実食。
白いレンゲで麻婆豆腐をすくい、白ごはんに乗せていただく。口福。やっぱこれよね!麻婆豆腐とご飯をいい塩梅で口に運ぶ幸せよ。たぶん私、今いい顔してる。
小さなお茶碗の白ごはんは、手にしっくり馴染む。大事に抱えながら、麻婆を乗せていく。
あるとき、白いごはんを汚して食べることに異論を言われたことがある。私に言わせれば、なーにを言っとるんじゃ。このうまさ知らんのかい、というところだが、人それぞれ好きなやり方があるものなので、「あらそう?」と笑顔で流すことにしている。大人だ。間違っても「うるさい」と心の声を漏らさぬように。
白ごはんはお代わりできるのだが、小さいお茶碗ながら意外とご飯の量はちょうどよく、お腹も素敵に満たされた。ああ、ご馳走様!
これでこの街に、ひとつお気に入りの場所ができました。また来ます!
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