悪くない
mono
悪くない
朝の通勤路は、いつも通りだった。
歩道の幅も、信号の間隔も、空気の重さも変わらない。
少し脇に逸れた道を、その日も特に意識せずに歩いていた。
黒い羽が、視界の端で跳ねた。
足を止めるほどではない。
ただ、そちらを見ただけだ。
舗道の端に、小さな動物の体が横たわっている。
形は崩れていて、何だったのかはすぐには分からない。
その上に、カラスが二羽いた。
羽音。
嘴が差し込まれ、引き抜かれる。
動きは早く、迷いがない。
争いもなく、無駄もない。
私は歩いたまま、それを見ていた。
近づくことも、離れることもなく、視線だけが追う。
嫌悪も、同情も、特に浮かばなかった。
慣れた手つきだと思った。
必要なところだけを、正確に取っていく。
残す部分と、残さない部分の判断が早い。
ああ、これが自然の摂理か。
……思ったより、悪くないな。
そんな考えが、音もなく浮かんだ。
驚きはなかった。
ただ、そう理解した。
生き物は、死んで終わりではない。
こうして別の命の血肉になる。
役割を終えても、完全に消えるわけじゃない。
最後くらい、役に立つなら。
それも悪くない。
私は歩き続けている。
足取りは変わらない。
通勤路も、朝も、いつもと同じだ。
悪くない mono @monokaki_story
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