悪役令息・光源氏がやってきた!

春秋花壇

悪役令息・光源氏がやってきた!

悪役令息・光源氏がやってきた!


目覚めたら

鏡の中に

絶世のクズがいた


まつげは長く

顎は完璧

笑えば世界が一秒止まる

――が

通帳は、地獄


二億円

ゼロが多すぎて

和歌にできない


「いとをかし」

じゃない

「いと重し」だ


前世の私は

月を口説き

花を抱き

女房を増やし

罪を詠んでいた


今世の私は

板橋で

雪に足を取られ

股引を履き

利息に追われる


若紫は

「キモい」と言い

葵の上は

ヒールで心臓を踏み

末摘花は

静かに首を振る


――それでも


私は

美しい

というだけで

何度も許されてきた


だから

許されない夜が

来ると

知らなかった


雪が降る

12月19日

月は白く

借金は黒く

愛は

選択肢になった


「二人とも

私の妻になれ」


その瞬間

前世が

音を立てて

崩れた


花は

誰のものでもなく

光は

独り占めできず

和歌は

逃げ場ではなくなった


それでも

私は詠む


雪の夜

欲張る心

滑り落ち

板橋の空

月だけが知る


――悪役令息・光源氏

今日も生き延びる

モテすぎる

変態として


光は

まだ

散らない


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