第7話

「これ本当にタダでいいの?」


おばあちゃんは、囲炉裏でパチパチとはぜる火を眺めながら、満足そうに目を細めた。 「ああ。あんたたちみたいな『馬鹿正直』と『へんてこな合理主義者』を同時に見たのは、長い人生でも初めてでね。面白いものを見せてもらった代賃だよ」


おばあちゃんが差し出してきたのは、煤けて真っ黒になった、一見ただの分厚い古本だった。


紡の瞳が、その本にピントを合わせる。


『#大陸共通語大辞典(初版)』 『#魔法言語のルーツ』 『#市場価値:測定不能(歴史的価値のため)』


(……! 欲しかった辞書。それも、ただの単語帳じゃない。魔法の成り立ちが記された、言語学の源流……!)


「これ、本当にタダで……?」 もう一度聞き返す紡に、おばあちゃんはニヤリと笑った。


「ただし、条件がある。その本を読み終えたら、その中にある『呪いよりも醜い言葉』を一つだけ、あたしの気が済むような『美しい言葉』に書き換えておくれ。……あんたなら、できるだろう?」


おばあちゃんの頭上に、一瞬だけ揺らめいた別のタグ。 『#隠居した大魔導師(偽装中)』『#退屈しのぎ』


食わせ物ね。

 

「……ええ。お安い御用よ。画数が少ない言葉だと助かるけど」


パラパラパラ


辞書をめくった瞬間、紡の脳内にこれまでにない速度で通知が走り始める。


【新規語彙を1,000語登録:知力が200上昇しました】 【スキル『タグ編集』の効率化:同じ効果のタグを少ない画数で代用可能になりました】

(……なるほど。例えば『#飛行』の代わりに、この古語の『#翔』を使えば、魔力消費を半分に抑えつつ、さらに高速で移動できる。……知識は力、文字通りね)


【複数付与最大二文字まで使用可能になりました】


これまでは#熱を貼るだけだったのが、#熱 + #飛 で「熱を持ちながら飛んでいく火球」を作ったりできるってことね!勿論、#幸運をタグ付けすることだってできる。魔力すごく取られそうだけど。

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