第3話:出会います、新しい主

西園寺家。


それはこの国―――日本では由緒ある家名だ。


明治には総理に何回もなった者も輩出してきた。


そんな一族の末裔、それが俺だ。


だからこそ、勿論本家の屋敷は非常に広い。俺にもかなり広い自室があるし、なんなら勉強用などと別用途の為の部屋もある。


そして、メイドや執事も多く抱えている。


かくいう俺にもメイドがいた。少し前に辞めていったが。


上り始めた朝日が照らす広々としたベッドの上で、枕に突っ伏す。


……俺が今考えているのは、昨日の事だ。


突然新しいメイドが入ってきたのだ。


しかもそのメイドは高校生の俺より若干年が上と捉えれるほど。


身長が若干高いか、くらいだ。


先ほども言った通り、ここは名家だ。メイドでもそう易々と働きに来れる所ではない。


だからこそ、猶更あいつが不気味だった。


「何なんだあいつ。貧乳のくせに……」


枕で視界を真っ暗にしながら呟く。


すると、何という事か、返事が返ってきたのである。


「それが何か?」


想定外の返事に思わず枕から飛びのく。


素早く振り返ると、そこのは昨日のメイドが立っていた。


聞かれていたのかは分からないが、幼さの残っている顔は一切表情を変えていない。


「おはようございます、蓮様。本日の朝食はトーストとトマト煮になっております。ご用意ができましたらお越しください」


俺が驚きで固まっている間に、メイドは綺麗なカーテシーをしてから、一切ブレない動きで部屋を後にしていった。


部屋に静寂が訪れる。


「あいつ……足音がしなかった……何なんだあいつは」


俺は底知れぬ違和感と恐怖を覚えた。



■     ■



一方。


どうも、俺です。


ついに働き始めました。昨日から、メイドとして、でっかい屋敷で。


金持ちから息子の世話を任されたのである。


昨日誘ったばかりの相手にそんな重役を任せるというのはどうなのだろう。


信用しているからか、あるいは……。


というのはさておき、先ほどその息子に会いに行った。


名を西園寺蓮。中々破天荒な性格らしく、一番得意なのは格闘技らしい。


得意が格闘技っていうのは中々聞かないな、と思う。


まぁ強いのはモテるらしいので、ありなのかもしれない。


だが、とりあえず起こしに行ってみると、枕に突っ伏しながら”貧乳のくせに”などと言うではないか。


確かにこの体は身長が普通である一方、平らなのであるのは否定できない。


何ぞ肯定せんや? 俺と一戦やるか?


少し腹の立った俺は静かに背後に回って声をかけた。


案の定息子は狐につままれたような顔をしていて、非常に面白かった。


まぁそれはさておき、俺は食堂に戻って朝食の用意をササッと進めていく。


相変わらず自身の手が、昔から知っているように完璧に動く。


まるで手が何本もあるかのような手の動きに、前からいた料理人達があんぐりと口を開けている。


スピーディーに飾り付けをして、それを机に並べていく。


良い香りが、食堂の部屋を満たす。


さて準備万端。


後は雇い主たちに楽しんでもらうだけだ。


やがて食堂の部屋がガチャリと、開かれた。







「今朝から災難が起きたわ……」


不気味な新人メイドの伝言通りに、着替えなどを済ませた後、俺は今広い広い屋敷を歩いて食堂に向かっている。


そうだ、着替えといえば、今日入口に置かれていた衣服が随分綺麗に置かれていた。


いつも綺麗なのはそうなのだが、今日のは数ミリ単位で綺麗に折りたたまれている。最早怖いレベルだった。


きっと、ほぼ確実に、絶対あの新人メイドだろう。


思えば、父親から紹介されただけで、経歴などは何も聞いていない。


相変わらず父親の観察眼と自信家なことに驚かされる。


やがて食堂のドアの前につく。


いつも通りの重みのあるドアを開けると、瞬間、非常に食欲のそそる香りが鼻腔を突き抜けた。


それと同時に視界に入るのは既に座っている父親と、何人かのメイドや執事。


馴染みのメイド達のなかに、例のメイドは悠々と立っていた。


他と違い、ロングスカートのクラシックタイプのメイド服を着ており、随分落ち着きのあるイメージがあった。


「おはようございます、蓮様」


一番手前の父親専属のメイドが一礼すると、続いて頭を下げる。


その角度は変わらずブレない。


頭を上げた彼女と、目が合う。


その目は変わらず何を考えているのか分からなかった。

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