第2話:拾われます、金持ちに
さて、俺は只今ホームレスやってます。
あれから直ぐに問題もなく退院できたはいいものの、この世界に俺の居場所はない。
つまりは、家がない。結果俺は河川敷で昔運営からログボで貰ったキャンプセットを使って自給自足をしている。
セットにウィンドブレーカーがついていたのは有難い。流石にキャンプにメイド服は合わない。
「さて、今日はカルパッチョでも作りましょうか……」
補正のかかる声を合図に、俺の身体は昔から知っていたかのようにテキパキと動く。
持ち物(異空間)から余りまくっている材料を取り出し、一瞬でカットする。
その間も、まるで俺は上から俯瞰しているような感覚だ。
材料を絶妙な加減で取り出したフライパンで炒め、オリーブを加える。
辺りを香ばしく、そしていい香りが漂う。
パキパキと焚火の音もして、実に心地よい。
すると、向こうから何人もの人がきた。
全員が質素な身なりで、段ボールを片手に持つ。
俺が借りている河川敷の先住民達だった。
「おー今日も旨そうなの作ってんなー俺らの前で堂々と」
そう言っているが、彼の口からは涎の音が聞こえる。
「貴方がたも食べますか?」
「えっいいのか?」
「ええ。貴方がたの分も一緒に作っていますので」
俺がそう言ってやると、彼彼女らは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「いやー毎度毎度助かる、本当。さっきまでの言葉なかったことにして。」
「この程度なら何の問題もありませんよ」
カルパッチョを皿に分け、彼らに渡す。
食欲をそそる匂いにやられたらしい彼彼女らは、受け取るとすぐ割りばしで食べだした。
「いや、マジで旨いなコレ!」
「お嬢ちゃんが一番旨いよ!」
「俺昔料理人やってたけどこんなの食べたことねぇ!」
そりゃ、さ。カンスト勢だから。料理系スキルもカンストしてんのよ。旨いのは当たり前だろう。
感激し合っている彼彼女らの一人が、ポツリと呟いた。
「そういやお嬢ちゃん、分けてくれるのは有難いんだけど、この材料、どこから持ってきてんの?」
「それは……」
ここ(異空間)から出しました、なんていってみろ。飛ぶぞ。
どうしたものかと頭を悩ましている時だった。
「私にも、少し分けてもらえないかな?」
背後から声がした。
振り返るとと、そこにはどっからどうみても金持ちがいた。
質素だが、その綺麗なスーツは高級感を漂わせている。
だが、その視線はとても鋭く、俺の一挙一動を逃さんとばかりだ。
ホームレス達が、息を呑んで静かになる。
「……ええ、別に構いません」
何故こんな所に、という疑問を浮かべながら、俺は金持ちらしき男に割りばしと皿を渡す。
男は暫く香りを楽しんでから、やがて箸でカルパッチョを口にした。
「……なるほど、確かにこれは美味しい、な」
ゆっくりと食べながら、男がしみじみと言った様子でそう呟く。
「……うむ、よし、決めた。このカルパッチョを作ったのは貴女だね?」
突然頷いたかと思うと、男の威厳ある目線が俺に向けられた。
「はい、そうでございます」
「そうか。なら、私の所で働いてくれないか?君を是非とも採用したい」
そう言って不敵な笑みを浮かべる。
その笑みに、俺は嫌な予感がした
★ ★
「坊ちゃん!坊ちゃん!」
いつもの口煩い手伝いが、俺の部屋のドアをコンコンと叩きながら叫ぶ。
「今日から新しいメイドの人が来ましたよ!」
新しいメイドだって?俺は無視するつもりだった声の方に振り返る。
「こんな時期にか?」
「そうです! 挨拶したいそうなので旦那様の部屋に行って下さい!!」
急かされ、渋々広い屋敷を通り過ぎ、父親の部屋のドアをノックする。
すると、中から渋い声が返って来る。
「入りなさい」
ドアに力を込め開くと、中に二人の人がいた。
一人は父親であったが、もう一人はメイド服を着た随分若い少女だった。
10代後半の、一切に興味がないような無機質な目をした少女。
父親が不敵な笑みを浮かべながら俺に言う。
「彼女がお前の新しい仕えだ」
声に従い、彼女の目が俺を捉える。
そして、俺に向かって綺麗な角度でお辞儀をした。
「初めまして。今日からお仕えさせていただきます。お願いします」
至って平坦な声でそう言った。
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