第2話 隣人のハエトリさん
アゲハ「あ、こんにちわ。今日も元気そうでよかった」
ミツキ「あ、うす! 元気っすよ!」
アゲハ「え? あ! 来てたんだ、ミツキ君!」
ミツキ「元気だけが取り柄っすから!」
アゲハ「元気? どうしたの、急に」
ミツキ「え……、さっき今日も元気そうって、言っていたから……」
アゲハ「ああ、それはこの子に挨拶してたの」
ミツキ「この子?」
アゲハ「ここ、ここ」
ミツキ「え?」
机の上の小さいクモ。
5ミリぐらい。
ミツキ「えっと、クモ?」
アゲハ「アダンソン一家のハエトリさん」
ミツキ「あだん……、え?」
アゲハ「知らないの、有名なアダンソンの一族」
ミツキ「えっと……、わかんねーっす」
アゲハ「だめだなぁ……。ごめんね、気を悪くしないでね」
ミツキ「別に気は悪くしてねーっすけど」
アゲハ「今のはハエトリさんに謝罪したの!君が無知だから!」
ハエトリ「サッサッ」
ミツキ「え、は、はあ……、なんかわかんねーっすけど、すんません」
アゲハ「まあいいわ。って、あ……」
机をトコトコと歩いて行く、ハエトリグモ。
アゲハ「行っちゃった。気を悪くしたのかも」
ミツキ「あ、あの……、さっきのクモって?」
アゲハ「あー、あの子はね、科学準備室に住んでるハエトリさん。毎日挨拶しに来てくれるの」
ミツキ「毎日っすか……」
アゲハ「礼儀正しい子なんだよね~」
ミツキ「は、はあ」
アゲハ「ハエトリさんは目がすごい良くってね、人の顔を認識してるんだ」
ミツキ「マジっすか?」
アゲハ「そうだよ~、だから君もハエトリさんに、早く顔を覚えてもらってね。新人君」
ミツキ「……がんばるっす」
アゲハ「君は彼らに対する知識が足りなすぎ、ちゃんとしてないと、怒って挨拶してくれなくなっちゃうよ?」
ミツキ「すんまんせん。えっと……、さっきのクモって、何て言うんでしたっけ?」
アゲハ「ハエトリさん?」
ミツキ「あー、ハエトリさんっすね」
アゲハ「正式にはアダンソンハエトリの青年だね」
ミツキ「え、正式には、なんて……?」
アゲハ「アダンソンハエトリ」
ミツキ「あだん、そ、そ、」
アゲハ「アダンソンハエトリ!」
ミツキ「あだんそん、はえとり……」
アゲハ「素晴らしい!!」
ミツキ「え?」
アゲハ「今、昆虫観察部員への第一歩を、君は歩んだの」
ミツキ「だ、第一歩?」
アゲハ「そう。隣人であるハエトリさんの名前を覚えた。これは、君がこの場所の住人として、初めて大きく一歩を踏み出した瞬間なのよ。その誇りを胸に刻みなさい」
ミツキ「は、はい!」
アゲハ「違う!」
ミツキ「え!?」
アゲハ「ここでの返事は、イエス、インセクト!」
ミツキ「い、イエス、インセクト!」
アゲハ「素晴らしい!」
ミツキ「あざす!」
アゲハ「前向きな精神を感じられる、とてもいい返事だったわ」
ミツキ「あの……」
アゲハ「なにかしら?」
ミツキ「イエス、インセクトって、どういう意味ですか?」
アゲハ「ミツキ君って、英語苦手?」
ミツキ「まあ、得意じゃないっすけど」
アゲハ「かしこまりました、昆虫さんって意味だけど」
ミツキ「あの、ひとついいっすか?」
アゲハ「発言を許可します」
ミツキ「かしこまりました、昆虫さんって、どういう意味っすか?」
アゲハ「あの、ミツキ君って、国語も苦手?」
ミツキ「得意ではないっすけど……。すんません。なんでもないっす」
アゲハ「そうだ、ちょうどいい機会だし、今日の活動内容は、ハエトリさんと仲良くなることにしましょうか」
ミツキ「え、う、うす……」
アゲハ「ちょうど、そこで、ハエトリさんは君の成長を見てくれているわ」
ミツキ「ど、どこに……」
アゲハ「あそこ、あそこ」
壁に小さい点が見える。
近づいてみるとハエトリさん。
アゲハ「ほら、君がここの住人になったんだよって、教えてあげなきゃ」
ミツキ「ど、どうやって?」
アゲハ「ゆっくりと顔を近づけて、彼に見せてあげて」
ミツキ「い、イエス……、インセクト……」
一歩踏み出す。
ゆっくりと顔を近づけていく。
ミツキ「こんな、感じっすか?」
アゲハ「だめだめ、もっと近づかなきゃ!」
ミツキ「ど、どれぐらい?」
アゲハ「もっと、こうだよ!」
後ろから、覗くアゲハ。
ミツキの肩越しに顔を出す。
アゲハの髪がミツキの頬に触れる。
背中にも柔らかな感触。
ミツキ(すげ……、めっちゃいい匂いする……)
アゲハ「こら!後ろに下がるな!」
ミツキ「あ、す、すいませんっす!」
アゲハ「違う!返事は、イエス、インセクト!」
ミツキ「イエス!!インセクト!!」
ハエトリ「サッサッ」
両手をバンザイみたいに上げるハエトリさん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます