立ち上げよう、麗しい君と僕らの昆虫観察部

剛申

第1話 戦士ムーちゃん





アゲハ「じゃーん! ここがウチの部室!」


ミツキ「科学準備室ですか?」


アゲハ「ほんとは、隣の科学室を狙ってるんだけど、理科実験部が使ってるからさ~」


ミツキ「へー。というか、部活として、成立してないって、言ってませんでした? 部室は用意されているんですね」


アゲハ「まーねー、非公式だけど!」


ミツキ「非公式?」


アゲハ「親の力って奴~? ウチのパパ、博物館の研究者なんだけどね、科学の森先生って、パパの後輩なんだ~。だから見逃してもらってるの」


ミツキ「へ、へえ、色々あるんすね」


アゲハ「そうだ、見てほしい物があるんだよ!今の活動のメイン!」


ミツキ「あ、はい。というか、活動内容も聞いてませんでした、何をやってるんですか?」


アゲハ「じゃじゃじゃーん!」


アゲハが棚を開ける。

土の入った水槽みたいなの。


アゲハ「よっと、重っ」


水槽のような物を取り出す。


ミツキ「大丈夫ですか?」


アゲハ「だ、大丈夫!きゃ!」


ミツキ「門城もんしろ先輩!」


水槽を抱えるミツキ。

アゲハの手と触れあう。


アゲハ「あ、ありがと……」


ミツキ「……うす」


おでこがぶつかりそうな距離。

赤面するアゲハ。


アゲハ「重くない……?」


ミツキ「余裕っす」


ミツキ(か、顔ちかー!! しかも先輩赤面してるー!! かわいー!)


アゲハ「あ、あの、ミツキ君?」


ミツキ「……え?」


アゲハ「虫かご、机に置いていい?」


ミツキ「あ、ごめんなさい、え、虫かご?」


カサカサ。

ミツキの腕に嫌な感触。


ミツキ「あれ……、なんだ、この感触?」


腕をはい回る大きなムカデ。


ミツキ「ひ、ひいいい!!!!」


アゲハ「あ、ムーちゃん、かごから出たら駄目じゃん!」


ミツキ「た、助けてええ!」


アゲハ「暴れないで!ムーちゃんがケガする!」


ミツキ「む、むかでが、おれの腕を回って、そ、袖の中にいいいいい!」


アゲハ「こら、ムーちゃん!」


ムカデの頭を素手で掴むアゲハ。


ミツキ「はー、はー、はー、」


アゲハ「怖かったねー。ごめんねー、ムーちゃん」


ミツキ「こ、こわかったです」


アゲハ「え?」


ミツキ「ムカデが……」


アゲハ「何の話?」


ムカデ「カサ?」


ミツキ「いや、あの」


アゲハ「腕を木と間違えちゃったのかもね。狭い虫かごで、ごめんね、ムーちゃん」


ムカデ「カサカサ」


アゲハ「うんうん!今度、腐敗した倒木探してきてあげるからね!」


ムカデ「カサカサカサ!」


アゲハ「うんうん!」


ミツキ「は、はは」


アゲハ「ミツキ君、紹介するね。こちらはムーちゃん。こう見えて、この子は生物界の強いハンターなんだから!」


ミツキ「ハ、ハンター?」


アゲハ「家の中にゴキちゃんとかいるじゃない? 私、あの子達が苦手でさー」


ミツキ「あ、ゴキブリは苦手なんすね……」


アゲハ「ムーちゃんの一族は、高速移動が得意でね!ゴキちゃんたちを一瞬で殲滅せんめつしてくれるんだ!かっこいいんだから!」


ミツキ「そうすか……」


ムカデ「カサカサカサカサ!」


アゲハ「え? 何、ムーちゃん……」


青ざめるアゲハの顔。


アゲハ「そんな、もしかして……」


ミツキ「な、なんですか?」


アゲハ「やばい、見られてるのかも」


ミツキ「見られる?誰が?」


アゲハ「きゃ、きゃあ!!」


ミツキ「門城先輩!?」


アゲハ「いたわ……」


ミツキ「なにが……?」


アゲハ「壁の隅!敵の特殊部隊!」


ミツキ「え?」


壁の隅の黒い、丸。

良く見るとゴキブリ。


ミツキ「ゴキブリだ」


アゲハ「いける?ムーちゃん」


ムカデ「カサカサカサカサ!!」


アゲハ「よし。コンディションレッド発令、生かして帰してはだめよ」


机にムカデを置く。

とたんに走り出すムカデ。


ミツキ「う、うわ!!」


あっという間に壁に移動。

ゴキブリは気づかないのか、動いていない。


アゲハ「行け!奴の命を刈り取れ!!」


ムカデ「カサカサカサ!」


ムカデが接近して、気づいたゴキブリが高速で逃げる。


ミツキ「逃げた!」


アゲハ「逃げられるわけない!ムーちゃんは歴戦の英雄よ!」


ムカデ「カサカサカサ!!」


アゲハ「これまで、ムーちゃんの姿を見て、生きて帰れた敵兵を私は知らない。ああ見えて、ムーちゃんは冷酷な戦士、生半可な者には容赦なんてないわ」


ゴキブリが棚の上に移動、ムカデが追う。


ミツキ「あ、見えなくなった!」


棚の上を覗こうとする。


アゲハ「邪魔しないで!!」


ミツキ「え?」


アゲハ「殺しを見せないように配慮してくれているのよ。ムーちゃんは優しいから」


ミツキ「さっき、冷酷な戦士だって言ってませんでした……?」


棚の上から顔を出すムカデ。

ゴキブリの羽を咥えている。


アゲハ「戦闘終了。警戒解除。よくやってくれたわ、ムーちゃん」


ムカデ「カサカサ」


アゲハが持つ赤いゼリーに寄って来るムカデ。


ミツキ「ご、ゴキブリ、食べたんですよね……」


アゲハ「残酷だけど、仕方がないの。勝者がいるなら敗者もいる。この世はね、善悪では語れないものだから」


ミツキ「は、はあ……。あの、聞いていいっすか?」


アゲハ「ええ。発言を許可します」


ミツキ「今の活動のメインって……」


アゲハ「もちろん、ムーちゃんの観察です」


ムカデ「カサカサ」


ミツキ「っすよね……」


ムカデ「カサカサカサ」

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