地球侵略

おもちちゃん

地球侵略

 円盤から地球を眺めていた。ゾーイ星人のウィムと部下のカルムはフリールームに置かれたソファに座って一杯やっていた。


ウィムは地球侵略支部部長として働いている。支部部長と言っても辺境に位置する惑星の侵略支部のため部下は三人しかいない。


ウィムは地球をスパイして手に入れた赤ワインを一口つけた後、地球をワインで透かして見た。透かして見た地球は赤紫色に染まり、まるで血まみれのように見える。

地球人の食への探求は素晴らしいものがある。できれば同盟惑星としてやっていければよかったのだが。ウィムは彼の職務を憂いた。しかし仕方ない。

我々の目的はゾーイ星人の繁栄だ。

ウィムはグラスのワインを飲むとカルムがワインを注いでくれた。

(ありがとう。)

ウィムはテレパシーでカルムに言った。カルムは軽く会釈した。

(しかし、あれですね。侵略には惜しい星ですね、こんなにおいしいお酒と料理があるのに。)

(まあな。でも本部に聞かれたら大変だぞ。侵略はあくまで仕事なんだから。)

ウィムはステーキを食べながらテレパシーで言った。


ゾーイ星人の侵略は適合型侵略と言われる。

侵略には「卵」と呼ばれる生体ロボを侵略対象の惑星の土に深く埋める。

埋められた卵はそこから細かい触手を地表へと伸ばして惑星の気候や病気、生き物の学習を始める。

学習内容に応じて卵の中の生体ロボは形を変えて惑星に適したものになっていく。

そして学習が終わった生体ロボは地表に出て破壊の限りを尽くす。


 地球にはすでに卵が埋められており、侵略は秒読みとなっている。

ウィムとカルムは侵略の成功の前祝いをしているのだった。

(うまくいきますかね、侵略。)

カルムはテレパシーで言った。カルムは侵略の仕事は初めてなのだ。

(うまくいくよ)

ウィムはテレパシーで答えながら別のことを考えていた。ぼくの計画がうまくいけばあるいは…。


 “奴ら”は突然現れた。奴らは10メートルほどの大きさで、2対6足の足で透明の翼を持っている。大きな目は背中側についており、口には鋭いくちばしのようなものが付いていて、上半身体は固い甲羅で守られ、下半身は渦を巻く形をしている。

 奴らは高層ビルを見つけると、そこに張り付いて翼を擦り合わせて爆音を立てる。その爆音で半径100メートルの窓が割れ、ビルは脆くも崩れ去ってしまう。


奴らを倒すため軍隊が出動し、世界は戦場と化した。

ある国の都市の中で一番目立つ高層マンションに奴らがくっつくと、そこで翼を擦り合わせて爆音を鳴らした。マンションの窓は全て割られて、車道に降り注ぎ、中には音を立てて灰燼と化す建物もあった。ただ、人類もやられてばかりという訳ではなかった。

 雨の様にマンションから窓ガラスが降り注ぐ中、隊列をなした戦車がボロボロになった街を進んでいった。

軍隊が奴らを発見すると戦車は一列をなして、一斉に砲弾を発射した。

放たれた砲弾は奴らの大きな目に直撃し、紫色の体液が飛び散った。

奴らはたまらず飛んで空へ逃げたが、人類もそれは計算済みで、逃げようとする奴らの前方から戦闘機が飛んでくるとミサイルを発射した。

ミサイルは奴らの眉間に直撃して、奴らはきりもみ回転をしながら地面に激突した。人類の勝利だ。


しかし、それは長くは続かなかった。各国は奴らを倒す事に成功したものの、依然として被害は甚大だった。しかも奴らは次から次へと地中から顔を出してきたのだ。

さしもの人類も倒しても倒してもキリがない奴らとの闘いに次第に疲弊し始めていた。核兵器をもつ国では自国への核使用を考えるほど世界でも怪獣に押されつつあった。

  


(地球侵略は失敗したのか。ウィム。)

本部の侵略課のヤルカは料理には一口も付けず、ウィムにテレパシーで言った。そのテレパシーは怒りの感情が読み取れた。

(はい、地球人は凄まじい兵器を持っているようです。卵から孵った怪獣たちはみな7日も経つと全員倒されてしまいました。)

(うぅむ。しかしカルムが出した報告書にはそんな兵器は書いていなかったぞ。)

(恐らく秘密にされていたのでしょう。)

(なんだかえらくうれしそうじゃないか。まあいい。地球侵略は中止だ。)

ヤルカはそうテレパシーで伝えると地球侵略支部を後にした。カルムはヤルカの料理を片付けると言った。

(地球が侵略されなくてよかったですね。)

(まったくだな。)

ウィムはカルムが作ったイタリア料理を食べながら窓の外の地球を眺めた。

地球は相変わらず綺麗だった。

ウィムは思った。計画通り、卵がセミを真似てくれてよかった。

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