キャベツの千切り

せおぽん

キャベツの千切り

僕の名前は、山森タケル。19歳。大学1年生。


僕は今、深く絶望している。


近くのスーパー「ハッピーライフ」の、弁当がすべて売り切れていたからだ。調理スキルの乏しい僕の生命線だったのに。


仕方ない。今日は自炊しよう。オレンジのカゴを構え直し、僕は生鮮野菜売り場に向かった。


いつもは「ハッピーライフ」のボリューム満点で安価な弁当目的で、弁当売り場に一直線であったので「ハッピーライフ」の生鮮野菜売り場に来るのは初めてだ。


僕は、驚いた。旬の野菜がところ狭しと並べられている。丸々とふくよかで柔らかそうなキャベツ。白い肌で艶めかしい色気を感じさせるほどの大根。キリリと背筋を伸ばした猛々しいキュウリ。


全ての野菜が、ランウェイを誇らしげに歩く上流モデルのように見えた。これらが目を疑う程に安価なのだから、弁当が安いのは当たり前だ。


僕は自分を食いしん坊と思っていたが、思い上がりも甚だしい。と恥ずかしく思った。


ひとつ98円のキャベツをひとつ手に取り眺めてみる。この柔らかい葉を数枚めくり取り、そっと重ね、とんとんとんとリズミカルに千切りにするのを想像してみた。サクサクと小気味よく切れるキャベツは、どのようなドレッシングでも最高の野菜体験を味あわせてくれるだろう。


「あなた、食いしん坊ね?」


その声に、はっと振り返るとスラリとした若い女性がいた。ショートカットでクールな瞳が印象的だ。そんな女性が、太っちょの僕になんのようなのだろう?


「君、お弁当コーナーにいつもいるよね。あなたの食眼は、人の料理に舌鼓を打つだけではもったいないと思うわ。あなた、私と同じ大学でしよ?サークルは?」


「まだ、決めていません」


「じゃ、あたし達のサークルに入りなさい。BBQサークル『ブタリアン』に。君みたいに、食に貪欲で、食材にリスペクトできる人が必要なの」


彼女の名は、田中かなた。彼女が僕の運命になる人となるのを僕はまだ知らない。

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