第2話:大根の神
大根畑の祠にて、すずが自身の心の中に秘めていた不安を漏らしてから数日後....この日は晴れているのにも関わらず、不思議なことに何故か雨が降っていた。
そのため、今日は狐の嫁入りが行われる日ではないか?と村人達は囁いていたのだった。
一方、村人達がそんな会話をしているとは知らないすずは、いつものように両親と共に大根畑の手入れをしていたのだが
「今日は本当に変な天気だな」
「えぇ、そうね」
畑仕事をしていたすず達もまた、この妙な天気について気になっていたようで、不思議そうな顔をしながら草抜きをしていた。
今日は何だか変だなと呟く両親を尻目に、せっせと畑仕事をしていたすずだったのだが、どこからかこちらを見つめる視線に気がついたようで、すぐさま畑の周囲を見渡していた。
すると、そこに居たのは....陶器のような肌に雪のように白い髪を持つ青年で、浮世離れしたその見た目の彼に対し、当たり前だがすずはギョッとした顔になっていた。
どうして、あんなに見目麗しい人がここに居るのだろう?
すずがそんなことを考えていた時....その青年は徐ろに大根畑へと足を運ぶと、呆然としているすずの両親を放置したまま、彼女の下へと向かった。
「え、えっと....どちら様、ですか?」
目の前に居る美しい男に対し、すずが恐る恐る声を漏らした時、青年は突然彼女の手を握るとこう言った。
「やっと....お会いできましたね」
「ヘ?」
青年はそう言葉を発した後、すずに向けて優しい笑顔を浮かべていたが、何しろ見知らぬ人物にそんな反応をされたからか、彼女自身はどう対応して良いのかが分からず、ただただ岩のように固まっていたのは仕方ないのことだろう。
そんな彼女を知ってか知らずか、青年は瞳を星のように輝かせると、少しだけ顔を近づけながらこんなことを言った。
「私は....いや、私達はあなたに収穫され、大切に食べられた時からお慕いしておりました」
「え?」
「故に、この度は恩返しも兼ねてあなた様を娶ろうと思ったのです!!」
青年がそういった瞬間、何言ってんだコイツと思ってしまったのか、すずの顔にはそんな表情が思わず出ていた。
しかも、その男の口から娶るという言葉が出てきたのも相まって、彼女の警戒心が高まっていたのは言うまでもない。
それはすずの両親も同じだったらしく、二人は青年を引き剥がす形ですずを守っていた。
「あ、あの、いきなりそんなことを言われても困るのですが.....」
「それに、恩返しとは一体....?」
すずの両親がそう口々に言ったところ、青年はハッとした顔になった後、姿勢と服を正すと....端正かつ凛とした顔ですず達に向けてこう言った。
「私は
すずに求婚した男が....蘿蔔がそう言った瞬間、すず達は当たり前だが目を丸くしていた。
この日の本では、人間に恩を抱いた動物達が変化の術を身に付け、恩返しするという話はいくつも存在している。
しかし、自分達が食べてきた大根が恩返しに来るとは思ってもいなかったようで、すず達は呆然とした表情になっていたのだった。
「ら、蘿蔔さんは....本当に大根なのですか?」
「はい!!あなた方の一族の供養のおかげで、私はただの大根の魂から神へと昇格したのです!!」
蘿蔔がそう言った瞬間、その言葉の意味が理解するのに時間は掛かったものの、彼の言っていることが物凄いことだと察したのか、更に驚くような顔になるすず。
蘿蔔が言うには、ほんの少しの信仰心さえあればどんな存在でも神へと化すらしく、彼の場合はすずの一族が欠かさずに供養したことによって神格化したのだと語っていた。
彼の言葉を聞いたすずは、自分を娶りたいと宣言した男が神だとは思っていなかったのか、信じられないとばかりにこう声を漏らしていた。
「じゃあ....あの時の声は蘿蔔様、なんですか?」
「えぇ、そうです!!やっと気づいてもらえましたか!!」
嬉しそうに返答をする蘿蔔の姿を見たすずは、彼がここに来た理由が自分のボヤきが原因だと気づいたようで、やっちまったという顔になっていた。
そんな彼女の様子を気づかない蘿蔔は、再びすずの手を握るとこう言葉を続けるのだった。
「私は....神となる前から、どうやってあなた方の一族に恩返しをしようかと思っていました」
「え、ちょ」
「その気持ちは神と化した今も変わりません。ですから....私はすず様を娶る形であなた方のお役に立ちたいのです」
本気の表情を見せながら蘿蔔がそう言うと、目を丸くするすずの両親。
どうやら、彼が自分の娘と結婚する形で恩を返したいと考えていることを察したのか、二人は困惑した様子でお互いの顔を見合わせていた。
確かに、すずは周囲からは行き遅れと言われていた。
それはすずの両親、そして彼女自身も気にしていたため、この話は大変喜ばしいことであった。
それに加え、蘿蔔は元大根とはいえ今は神である存在なので、すずが彼に嫁ぐことは名誉と言っても過言ではなかった。
ただ、彼の話をそう簡単に信じられるはずもなく......二人は少しだけ話をした後、蘿蔔に向けてこんなことを言った。
「.....少し、考えさせてもらえないだろうか?」
「分かりました。では、後日また伺いますね」
蘿蔔はそう言った後、祠の方に向かったのだが....彼が祠に近づいた瞬間、まるで霧のようにフッと消えたことにすず達は驚いたのか、ギョッとした顔になっていた。
そして、彼が本当に自分達が食べた大根であることを再認識したようで、すず達は不思議な気持ちを胸に抱えながら家へと戻っていったのだった。
大根の恩返し婚〜元大根現神様は村娘を溺愛するようです〜 @marumarumarumori
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