僕の彼女 ――あの夜から、すべてが始まった
白
第1話僕の彼女
僕の彼女。
僕の……そうだな、救いの女神。
――言い過ぎかな。
でもね、ほんとうに僕を見つけて、
僕を、引き上げてくれた人なんだ。
だから僕は、
彼女との出会いを、物語にして残したいと思った。
これは小説じゃない。
脚色もしないし、都合のいい嘘も書かない。
僕自身の、日記だ。
出会いは――
もう、20年も前になる。
当時の僕は、恋に……
いや、恋と言っていいのかな。
今風に言えば、
たぶん「依存」だった。
それは今、落ち着いて振り返れるようになったから
そう言えるだけで、
当時の僕は、必死だったんだと思う。
ここから先は、少し長くなる。
それでも、付き合ってくれるかな。
彼女と出会う20年前。
僕は、ひどく恋に飢えていた。
みんなにも、ないかな。
ふとした瞬間に、胸の奥がざわつく感じ。
友達に彼女ができたとか、
楽しそうに誰かと歩いているのを見たとか。
理由は些細なのに、
なぜか、自分だけが取り残された気がする瞬間。
あの頃の僕は、まさにそれだった。
恋愛は得意じゃなかった。
高校も男子校で、
出会いなんて、ほとんどなかった。
アルバイトもした。
「もしかしたら、ここで何か始まるかも」
なんて、少し期待したりもした。
でも、現実はうまくいかない。
今思えば、
恋愛に対する免疫が、まるでなかったんだと思う。
笑える話だよね。
だから僕は、
せめて親を安心させようと思った。
母と父のために、勉強を頑張った。
いい会社に入って、
「大丈夫だよ」って言ってあげたかった。
僕の学費を稼ぐために、
二人がどれだけ働いてくれたか、
子どもなりに、分かっていたから。
感謝してもしきれない。
ただ……
僕はきっと、「いい子」でいようとしすぎていた。
大手企業に就職が決まって、
親も、親戚も、みんな喜んでくれた。
僕も、嬉しかった。
こんなにも祝福されるなんて、正直、驚いたくらいだ。
――順調だったのか?
そう聞かれたら、
「たぶん、表面上は」と答えると思う。
職場の人間関係も悪くなかった。
もちろん、厳しい先輩はいたけど、
それはどこにでもある話だ。
全部が全部、順風満帆じゃない。
だから、
土曜の夜だけが、楽しみだった。
親友と、決まった店で飲む。
同じ席、同じ酒、同じ話。
楽だったし、
どこか安心できた。
そして、
もちろん僕らは、出会いも求めていた。
――そんな時だった。
出会いは。
隣の席に座った、
夫婦らしき男女と、ひとりの女性。
店内は、賑やかだった。
笑い声と、グラスの音が混じり合っている。
僕は、親友と他愛もない話をしていた。
その時。
「なあ……トイレ行ってくるよ」
「分かった」
席を立ち、
短い通路を抜けてトイレへ向かう。
用を済ませて、戻る。
……すると。
僕の席に、
さっき隣にいた女性が座っていた。
「えっ? どうしたの?」
隣の夫婦は、なぜか楽しそうに笑っている。
親友も、少し戸惑った顔だ。
その女性は、屈託なく言った。
「ねぇ! 一緒に飲もう。ここ、いいかな? 座りなよ」
「……うん」
僕の後を追うように、
親友もトイレへ行った。
僕は、女性と二人きりになった。
「ねぇ、どうして僕の席なの?」
「私ね、分かるの」
「何が?」
「中心人物。奥の席に座ってる人が、中心人物なの」
うふふ、と小さく笑う。
「へぇ……そうなんだ」
よく分からない理屈だったけど、
隣の夫婦は、相変わらず楽しそうに笑っている。
何がそんなに可笑しいのかは、分からなかった。
ただ、
気づけば僕と彼女は、自然に話していた。
時間は、静かに、でも確実に流れていく。
夜も更け、
店の明かりが落ちる頃。
気づいたときには――
「あれ? 友達の夫婦……二人は?」
「置いてかれたみたい。へへっ」
「嘘でしょ?」
「だって、いないもん。へへっ」
……たぶん。
きっと。
わざと、なんだろう。
「ねぇ、お金は?」
「ごめん、ない」
「そっか……分かった。奢るよ。帰りは、大丈夫?」
「大丈夫じゃない」
だよな。
「家は? 自宅? 親と一緒?」
「そう」
「近い?」
「うん♪」
「……分かった。電車もないし、タクシーで送るよ」
「ありがと♪」
正直、少し困った。
でも、親と一緒なら……
どうにかなる、か。
店の外に出ると、
雨が降っていた。
親友は、何も言わず、
気を利かせたように先に帰っていった。
彼女が、ぽつりと言う。
「ごめんね……優しいね」
「そうかな」
「うん♪」
タクシー乗り場へ、小走りで向かう。
幸い、あまり濡れずに済んだ。
「乗ろう」
「ありがと♪」
「道、案内よろしく」
「分かった♪」
ドアが閉まり、
車が静かに走り出す。
こうして僕は、
彼女の親が待つ家へと向かった。
――まだ、この時は知らなかった。
この夜が、
僕の人生を、静かに変えていくことを。
――ここまでお読み頂いてありがとうございます。
ここで、主人公の言っている彼女が誰なのかはまだ、言えません。
もし、宜しければ、物語にお付き合いしてください。
よろしくお願い致します。
次の更新予定
2025年12月20日 07:00
僕の彼女 ――あの夜から、すべてが始まった 白 @506671
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