ハズレ召喚されたGO HOME君はサンタを呼んでみた

@tea_kaijyu

ハズレ召喚されたGO HOME君はサンタを呼んでみた

雪がちらつくクリスマスイブの夕方、学校帰りの陽太は手にしていた傘を閉じて空を見上げてみた。


「わあ、どんどん降ってくる」


楽しくなって空を見上げながら、クルクルと回ってみたりした。


「……あれ?」


気がつくと一面が銀世界だった。陽太の足跡しかない真っ白な雪の絨毯が広がっている。通学路にある道路標識も、ブロック塀も見当たらない。


「あー、また迷っちゃったかな?」



陽太はすぐに迷う。母親からは「ぼーっとしているから道に迷うのよ!」などと言われて、皮肉なのか戒めなのか、セールで大量に「GO HOME」って書かれたTシャツを買ってきた。Tシャツを学校に着ていったら、英語教室に通っているクラスメイトから「ゴーホーム君」とあだ名をつけられた。

学校に行っている間でも、いつの間にかどこかに行ってしまっていて「また、陽太くんがいないよ」などとクラスメイト達の話題になるくらいだった。


気がつくと知らない場所にいるということはしょっちゅうあるので、雪の平原のど真ん中でも、慌てない。


「えーと、隙間……」


見回すと大抵どこかに次元の隙間が見つかる。次元の隙間を通っても真っ直ぐに元いた街に帰れるかどうかはわからないが、いくつも次元の隙間を通っていくといつか家に帰れるのだ。


見渡すといくつか「隙間」の存在があるのがわかった。その中でも一番大きい「隙間」は空の上にあった。


「あんな高い場所にもあるのかぁ」


見ていると空にできた亀裂がパカっと大きく開いて、何か赤い色をした大きな影が亀裂から落ちてきた。続いて、何か鹿のような道具つが亀裂から飛び出してくる。


「いてて……」

「だいじょうぶ?」


雪の上に赤い服を着た青年が転がっていた。近くにソリが落ちている。


遅れて、トンと軽やかな音を立てて雪の上に舞い降りてきたのは鹿……ではなくトナカイだ。


「サンタさん?」

「HO! HO! いてて……」


赤い服の人物を見て、陽太にはすぐに誰だかわかった。絵本でも見慣れている赤い服。それにソリとトナカイだ。日にちもちょうどクリスマスイブなのだ。

少しイメージと違うのは、サンタが青年だったことだ。雪の上に倒れているのだが、白い付け髭が落ちてしまっている。


「プルル……」


転がっていたソリの荷台部分にトナカイが頭を突っ込んだ。何かを加えて頭を上げた。コルクで栓をされた陶器の小さいボトルだった。トナカイは小さいボトルを陽太に押し付ける。


「え? くれるの?」

「プルル……」

「……いてて、傷を治すポーションだ。……こっちに持ってきてほしい」

「あ、はあい」


陽太はトナカイからボトルを受け取ると、サンタに近づいた。コルクの栓を抜き取り、サンタに差し出す。


「はい。どうぞ」

「ああ、ありがとう……」


ヨロヨロとしながらサンタは差し出さらたボトルに手を伸ばした。サンタの指先が震えている。


「飲むの手伝うね」

 

陽太はサンタの手にボトルを握らせると、両手でサンタの手を包んで、ゆっくりとサンタの口に運ぶのを手伝った。


ゴクン


ボトルの液体を一口飲むと、サンタの全身が一瞬輝いた。


コホッコホッ


軽い咳をしてからサンタは陽太を見てニコッと笑みを浮かべた。


「ありがと。助かった」


ムクっと起きあがろうとしたので陽太が背中を支えた。


「……だいじょうぶなの?」

「ああ。ポーション飲んだから。おかげで助かったよ」


サンタは立ち上がって、服についた雪を叩いて落とした。


「いやー、まいったまいった。いきなり目の前に時空の裂け目が出来てさ。方向転換しようとしたら、ソリの綱が切れちゃうし」

「大変だったね……」

「うん。でも大丈夫! 心配してくれて良い子だね!君、お名前は?」

「陽太!」

「そうか。陽太君か。僕はサンタ」


ポンポンと陽太の頭を軽く撫でて、サンタは思い出したようにポケットに手を突っ込んだ。


「そうだ。良い子の陽太君に特別にこれをあげよう」


サンタはポケットから取り出した鈴を陽太に差し出した。ストラップのようなものがついた小さな銀の鈴だ。陽太は素直に手を出して受け取った。


「何か困ったことがあったら鈴を鳴らすと良いよ。メリークリスマス!」

「メリークリスマス!」


いつの間にかソリは直っていてサンタはトナカイが引くソリに乗って元気に飛び立ち、時空の裂け目に消えていった。その様子を手を振って見送っていた陽太は、サンタの姿が見えなくなってから、あたりをキョロキョロと見回して別の時空の亀裂に入っていった。



それから数年が経ち、中学一年生になった陽太は教室の窓から雪がちらつく空を見ていた。

クラスメイト達はクリスマスの話題で盛り上がっている。


「明日のカラオケボックスのクリスマス企画、みんなで行くよね?」

「ケーキも予約済み!」


その日はクリスマスイブ。翌日のクリスマス当日にどうやらクラスメンバーでカラオケボックスでパーティを開催するらしい。陽太は呼ばれていない。

転校してきて1か月。まだクラスにあまり馴染めておらず、距離がある。


「あ!ねぇねぇ!雪が降るとホワイトクリスマスっていうんだよね!」


ポニーテールの女子が窓辺を指差しながら近づいてきた。ドンと陽太と肩がぶつかる。確か、美羽ちゃんって名前だったと、陽太は思った。


「あ、ごめーん。GO HOME君」

「……いや」


時々来ているTシャツのせいか「GO HOME君」のあだ名だけは継続していた。目があっても特にパーティの誘いをするでもなく、美羽はグループの中に戻って行き、再びパーティの企画の話題で盛り上がっていた。


陽太はポケットに手を入れて、小さい鈴を手に取った。


クリスマス時期になるとなんとなくサンタさんとの出会いを思い出す。

結局、あの雪の平原からは、時空の亀裂をいくつか経由してなんとか家路に着くことができた。母親からは、「また迷子になって!」と怒られたがいつものことだったので気にしなかった。


「……サンタさん、元気かな……」


掌を開いて小さな銀の鈴を眺めていると、突然、教室の床が光った。


「勇者召喚の儀!」


気がつくと見知らぬ薄暗い広間みたいな場所。中世の物語みたいな、煌びやかで、重厚な衣装を見に纏った人達に囲まれている。


「え?何?」

「テンプレキター!」

「どういうこと⁈」


クラスメイト達は大騒ぎだ。


(うわあ、変なところに来ちゃった。クラスのみんなまで……)


普段「次元の亀裂」を通った時と様子が違うので、陽太は戸惑った。


一番豪華な服を着た偉そうな人が言うにはクラス全員「勇者召喚」されたらしい。魔王を倒して来いとか何とか。

クラスメイト達の騒めきが収まらないまま、ハンドボールくらいの大きな水晶玉を持った僧侶が現れ、「鑑定」とやらを始めた。


「スキル 聖剣!」

「おお!」

「まさに勇者だ!」


クラスで一番背が高い駿也に「聖剣」のスキルが出ると、歓声が上がった。


豪華な衣装の人物がでっぷりとしたお腹を揺らしながら駿也に近づいて行く。


「勇者殿! そこの聖剣を抜いてみてくれないか?」


指差した先、広間の中心のゆかに魔法陣のようなものが描かれていて、中心に剣が突き刺さっていた。

駿也がその剣を引き抜くと、剣がキラキラと輝く。


「おお!」


響めきが広がる。


「まさに聖剣に認められし勇者殿だ!」

「おおお!」


盛り上がっている中、陽太の前に、水晶を持った僧侶が立った。 


「えーと……」


陽太は戸惑いながら、指先を水晶に触れさせた。

水晶が僅かに光る。


目を細めて水晶から顔を離してから、僧侶が大きな声で言う。


「……スキル、鈴鳴らし!」

「……え?」


スキル名を聞いただけでな。どういうスキルか理解できなかった。


「あの、それってどういう……」


ヒソヒソと背後から声が聞こえてきた。


「こっちにも『ハズレ』が出たよ」

「あーあ……」


クスクスと笑っている。


(「ハズレ」かあ……)


恐らく大した事ないスキルなのだろう。陽太は俯き、僧侶にスキルについて尋ねるのをやめてしまった。


「おい。ゴチャゴチャうるさいぞ。お前達、そんなに良いスキルだったのかよ」


大柄な男子、確かサッカー部の快斗が、クスクス笑っている者達に苦言を呈した。

言われた者達は、気まずげに口を閉ざし俯いた。


(あ、もしかして、庇ってくれたのかな……)


陽太は、快斗をじっと見つめ、思い切って口を開いた。


「あの、ありがとう」

「……オメーも言われたままにさせとくなよ。ちょっとは言い返せ」

「あ、うん……」


快斗がちょっと気恥ずかしげにフンッと横を向く。陽太は気にかけてもらって、何だかちょっと嬉しくなった。


「あ、あのっ……」


マイペースな陽太は、周囲が召喚騒ぎで動揺しているのにも関わらず、快斗ともう少し話してみたら友達になれるかも、などと考えていた。


思い切って話しかけてみようとした時に事件は起こった。


「え⁈ 何? 『勇者』と『別』ってどういうことよ!」


誰か女子が怒鳴っている声が響いた。


騎士らしい人物が、ショートカット女子香織の腕を掴んでいた。


「勇者殿達は此方に。

大したスキルを持たない役立たずは、あっちに行けと言っている」

「役立たずですって⁈ 痛!」

「ちょっと!香織に何するの⁈」

「おい! やめろよ!」


騎士の腕から逃れようとした香織の腕を騎士が捻り上げた。ポニーテール女子美羽が、香織を助けようとして、腕で祓われる。

快斗が怒鳴って走り寄ると、大きな盾を持った騎士が快斗を盾で突き飛ばした。快斗は弾き飛ばされて床に倒れ込んだ。


「邪魔だ!役立たずは、早く移動しろ!」


怒鳴り声が広間に響き渡る。女子の悲鳴が聞こえた。


(大変だ! どうしよう……)


真っ先に見たのは「勇者認定」メンバー。でも、端っこの方に固まって戸惑った顔をしているだけだ。


チリン……


手に握ったままだった小さく鈴の音が聞こえた。


(あ……、そうだ……)


陽太は、サンタが銀の鈴をくれた時の事を思い出した。



『何か困ったことがあったら鈴を鳴らすと良いよ。メリークリスマス!』


(困ってる……。今、困ってるよ!)


陽太は、キョロキョロと周囲を見回した。


(隙間、隙間……)


次元の亀裂を探す。

小さい亀裂が天井近くにあり、見つめているとジワジワと大きくなってきている。


(あれだ!)


鈴の紐部分を持ち、振り回す。


チリンチリンチリンチリン


「助けて!!」


陽太が鈴を振り回して叫ぶと、周囲の視線が一斉に陽太に集まった。

騎士が陽太に近づいてくる。


「お前もこっちに来い!」


シャンシャンシャンシャン


騎士が陽太に手を伸ばそうとした時、頭上から鈴の音が聞こえてきた。陽太が手にしている小さな銀の鈴とは別の鈴の音だ。騎士がハッとして、天井を見上げた。


次元の裂け目から、トナカイが引くソリに乗った赤い服の人物が姿を現した。


「HO! HO! HO!」

「何者だ!」

「魔族の襲撃か⁈」


王国の人間達は頭上からの突然の見知らぬ男性の登場に動揺して騒いでいる。

一方、クラスメイト達にとっては、馴染みのある服装の人物だった。


「サンタ?」

「サンタだ」


ザワザワしているが、慌てふためく王国の人々と違って、クラスメイト達はサンタに期待の目を向けていた。


「HO!HO!HO! 陽太君、久しぶり! 大きくなったねえ」

「サンタさん! お久しぶりです!」

「呼ばれて何があったのかと思ったら……、はあ、なるほどぉ」


サンタは、広間を見回して、状況を察したらしい。納得したように頷いた。


「サンタさん! 助けて! 皆、日本に帰してほしいんだ!」

「HO! HO! HO!」


陽太の懇願に頷いたサンタが、広間の床に降り立つと、剣を構えた騎士数名がサンタに向かってきた。


「プルル!」


トナカイが鼻を鳴らすと、騎士達がすっ飛んだ。


「HO! HO! HO! さあて……」


サンタが背中に背負っていた袋を下ろして袋の口を開けた。

ニコッと満面の笑みを浮かべる。


「帰りたい子は、この中に入れぇ!」


袋の口の中は真っ暗だった。皆一瞬固まった。陽太だけは迷わずに、サンタが手にしている袋の口に飛び込んだ。


「あ! ……俺も! 帰る!」

「私も!」


陽太の姿が消えたのを見たクラスメイト達が、意を決してサンタの袋の中に飛び込んでいく。


「HO! HO! HO! それでは、良いクリスマスを!」


全員、袋の中に飛び込んだのを確認した後、サンタがソリに乗り込んだ。

クラスメイト達が袋の中に飛び込んでいくのを阻止しようと、王国の騎士達が向かって行ったが、トナカイの鼻息で吹き飛ばされるだけであった。


「「「「「サンタさん! ありがとう!」」」」」

「良いクリスマスを!」


クラスメイト達を教室に送り届けるとサンタは、ヒラヒラと手を振って、ソリで空の彼方に消えていった。



「あ、サンタさん、今日はありがとう! お礼にプレゼント配り手伝うよ!」


大きな屋敷の屋根の上でサンタがプレゼントの配布先リストを確認していたら、次元の裂け目から陽太が姿を現した。


「HO! HO! 陽太君は神出鬼没だねぇ」

「サンタさんもでしょ? 助けを呼んだらちゃんと来てくれた!」

「君の次元の裂け目の能力のおかげでもあるよ」

「そうなの?」

「僕が行かなくても、君が彼らを連れ帰れたんじゃないかい?」


サンタが、ジロリと陽太を見た。陽太はブンブンと首を横に振った。


「無理! 皆、僕には付いてきてくれないよ」

「ハハ! 人数が多かったからね!」


「そうじゃない、友達いないから」と言おうかと陽太は思ったが、サンタの朗らかな笑顔を見たら何となく言えなかった。



その後、陽太はサンタのプレゼント配布作業を手伝った。と言っても、煙突から入るなどは通常はしないらしく、プレゼントを配布するエリアまで行ったら、サンタ袋の口を開放するとプレゼントが勝手に飛んでいく仕組みだ。陽太は口の開いたサンタ袋を支える手伝いをした。


「陽太君のおかげで、仕事が捗ったよ。ありがとう!」


プレゼントを配り終えて、サンタにお礼を言われたが、陽太は慌てて首を振った。


「僕、何にも……。袋を持っていただけで……」


陽太としては、宅配業者のように一軒一軒プレゼントを配るのだと思って手伝いを申し出たのだが、プレゼントが自動配布されたので、あまり手伝えた実感がなかったのだ。


「いやいや、一人で配るより断然楽しいし、それに、陽太君が一緒だと、時空の裂け目を進めるから移動が早いんだよ」

「そうなの?」


サンタは自力でも時空移動が出来るから、プレゼントを配っているのだろうし、陽太にはよく分からなかった。でも、サンタが嬉しそうにしてくれているので、役に立ったと考える事にした。


「お礼にこれをあげるよ」


サンタが金色の小さな鈴を差し出した。前に貰った銀の鈴と色違いだ。


「え……、僕、助けて貰ったお礼に手伝っただけなのに」

「こっちも、手伝って貰ったから、お礼だよ。この鈴、可愛いでしょ?」

「うん、可愛い!」


銀の鈴て金の鈴を並べると、なかなか可愛いし、綺麗な音を奏でる。有り難く鈴を受け取る事にした。


「さて……、あれ……?」


サンタは、袋を仕舞おうとして、中にまだ何か入っている事に気がついた。取り出してみると、キラキラした剣だった。


「あ、それ、勇者の……」


勇者駿也が手にしていた聖剣だった。どうやら、駿也は聖剣を持ったままサンタ袋に飛び込んだらしい。


「ああ、勇者君が持って来ちゃったか……」

「大変! 返しに行かないと!」

「ええ?……君たちを誘拐した悪い奴らだよ?」

「でも……、勝手に持って来ちゃったら、ダメなんじゃないの?」

「……そうだねぇ。陽太くんは良い子だね。……でもこの剣は召喚をする力が付いているんだよ。剣を返すとまた誰か召喚されちゃうよ?」

「召喚する力を無くせないの?」

「……なるほど……。ちょっとやってみるか……」


サンタは、何か道具を出して、聖剣をガチャガチャと弄った。最後に剣をトナカイに差し出すと、トナカイは聖剣をパクっと口に咥えてからぺっと吐き出した。


落ちた聖剣からプシューっと灰色の煙が煙がでる。少しして煙は消えたが聖剣全体が鈍い黒ずんだ色に変わってしまった。


「あ……、色が変わっちゃったね……」

「仕方ないよ。また召喚されても困るだろう?」


確かにサンタの言う通り、クラスメイトも自分も再び召喚などされたくはなかった。

見た目も変わってしまった聖剣を返しに行くことにした。


「じゃあ、最後のプレゼント配りだね。陽太君、あの国の王様の事考えながら金の鈴を鳴らして」

「え? ……王様って豪華な服着た太った人?」

「多分そう」


サンタが頷いたので、陽太は言われた通り、王様を思い浮かべながら金の鈴を鳴らした。


リン……


軽やかな音色と共に、二人は薄暗い室内に移動していた。サンタが口の前に指を立てた。静かにという事らしい。

陽太は慌てて両手で口を塞いだ。


そこは寝室らしく、天蓋付きのベッドからイビキが鳴り響いていた。ベッドサイドのテーブルには、酒のボトルが二本転がっていた。


サンタは王が泥酔して眠っているのを確認した後、指をクルリと回した。すると、クローゼットから靴下の片方だけが飛び出してきた。


サンタは聖剣を靴下の中にグイグイと無理矢理突っ込み、ベッドの端に置いた。


翌日、普段より遅めに目覚めた王は、ベッドの端に置かれていた伸び切った靴下を見て悲鳴を上げた。


「ワシのあったか靴下が!」


靴下は聖剣を無理矢理突っ込んだので、すっかり伸び切ってしまっていた。

その後、靴下から取り出した聖剣が輝きを失っているのに気がついて、その日二回目の悲鳴を上げたのだった。


クリスマス当日の休み時間。前日の召喚の事など夢だったかのように、カラオケボックスでのクリスマスパーティーの話題で盛り上がっていた。

陽太は教室の窓から雪の止んだ校庭を眺めていた。


「ねえ!」


急に後ろから話しかけられて、陽太は驚いて肩を跳ねさせた。


振り返るとポニーテール女子、美羽が陽太の方を向いて立っていた。


「今日、放課後、駅前のカラオケ屋でクリスマスパーティーするんだけど、GO HO……、陽太君も来ない?」

「え⁈」


陽太はビックリして目を丸くした。クリスマスパーティーに呼ばれた? しかも名前で呼ばれた?


「あ、用事あった?」

「全然全然全然! 行くっ。行けるよ!」

「やった! じゃあ、放課後ね!」


美羽はニコリと微笑んだ後、女子グループの輪に戻って行った。


陽太の口元が緩んだ。頬が熱くなる。


(パーティーに招待されちゃった……! 名前で呼ばれた……! えへへ)


ニヤケそうになるのを堪えていたら、トンッと肩を叩かれた。


「カラオケでデュエット対抗戦あんだ。俺と組まねえ?」

「え? あああ、うん!」


快斗だった。突然の事で陽太はビックリしながら、ブンブンと首を縦に振った。


「じゃあ、決まり。女子パートヨロシク」

「え? 女子パート?」


どうやら、クラスは男子の数の方が多いから男子が余っていたらしい。


(そもそも、僕、知ってる曲ないかも……。ま、なんとかなるか……)


チリン


陽太はポケットから二つの鈴を取り出し、窓から空を見上げた。


(サンタさん、あの時助けてくれてありがとう……)


チリンチリン


二つの鈴を重ねて揺らすと、少しサンタのソリの音色に似ていた。





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