第4話 結末

 瓦礫の山。


 いたるところから立ち上る煙。


 吹き上がる火の粉。


 そしてあちこちから聞こえる叫び声。


 なんだ。なんだこれは。


 戦争でも始まったのか。


 ここは戦場なのか。


 そうだ、どこだ。ここは。


 辺りを見渡し、崩れた看板や、わずかに残る建物から、ここが日本だとはすぐにわかった。


 ここは新橋だ。


 見る影もないが、神隠しに遭う前にいた、新橋だ。


 公衆電話も崩れて瓦礫の一部になっている。


 俺だけが何事もなかったかのように立っている。


 なんで、こんなことになったんだ……?


 すわ、露西亜が日本を襲って来たのか、そう思ったが、気づいた。


「地震……か!!」


 マチコは最後に、「じしん」と言った。


 だから、こうなったのか?


 遥か遠くまで見渡せるほどに、帝都東京の建物という建物が潰れたこの光景を、あのマチコが生み出したというのか?


 馬鹿な。


 馬鹿な馬鹿な馬鹿な。


 マチコが何者だか知らないが、こんなことまで出来てたまるか。


 昔、村の寺で坊さんから聞いた話では、仏だか龍神だかは地震を起こせるといっていた。


 世の無常を知らしめるために、大地を揺らすのだと。


 それが迷信なのか、真実なのか知らない。


 だが、俺が相手をしてきたマチコは、絶対に神仏ではない。


 こんなことが出来てたまるか。


「あ」


 出来ない、のだとすれば。


 逆だ。逆に考えたなら。


 


奴もまた、地震に驚いたのでは?



 だから、つい言ってしまったのだ。


 じしん、と。


 そうだ。そうに違いない。


 この地震は奴の力じゃない。


 あるいは、地震で電話が壊れたから、奴が手出しできなくなったのかもしれない。


 この凄まじい破壊が、奴のものではないと思えた時、不思議と俺は気が楽になった。


「書いてやるぞ、マチコ」


 書いたところで、どうせ誰も信じやしないだろう。


 でも、それでもいい。


 お前を、与太話を集めた雑誌の、ネタの一つにしてやる。


 記事の名前は、「しりとりマチコ」でいいだろう。


「……よし」


 やることは決まった。


 それはいずれ必ずやる。


 この地震で、世話になるはずだった出版社も潰れているかもしれない。


 だが関係ない。


 もうやると決めた。


 俺はそれで生きていける。


 だから今は、この瓦礫の山に埋もれた人たちを助けるのだ。


 人手が足りているはずがない。


 そうだ、俺にはやることがたくさんあるのだ。


 しりとりマチコ、お前が何を考えていたかは知らない。


 だがな、俺は生きてやる。


 俺は、お前にしか必要とされない人間じゃないんだ。


 じゃあな。

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暗夜こぉる がっかり亭 @kani_G

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