第2話 -Mischief by the Unknown-

「もう許さねえ!!!警察だ警察!!!」


 俺は今度こそ110番をしようとした。


「その前にちょっと、これ見てよ。」


「ああん!?まだ言い訳する気かおま…え?」


 男が指さす先を見ると、モニターにはクレジットが流れていた。スマホの操作を止め、思わず固まってしまう。まさかこのエンディングは…。


「お察しの通り、キミが買ったこのゲームのエンディングだよ。クリアまでに3時間もかからなかったかな。どう?」


 得意げにどや顔をする男。俺は信じられないと言った目で見ていた。


(ウソだろ?このゲームは某有名Vでもクリアまでに5時間はかかるって言ってたぞ…。それを3時間でクリアしただって?)


「ウ、ウソをつくな!そんなん信じられるか!」


「論より証拠だね。画面をよく見てご覧よ。」


「画面…?何があるって…」


 そこまで言われて漸く気が付いた。


配信が…始まっている…???


「なん…だと…?」


 俺はガックリと膝をついた。コンビニで買ってきたドリンクやおにぎりが床に転がる。


(終わった…配信が始まっている前で大騒ぎしちまった…。いや、でも…泥棒が入って来たってのは事実だし…すぐにみんなに説明すれば…)


「安心しなよ。マイクはオフにしてある。じゃなきゃ、他人がやってたってバレるだろ?それより…配信時間を見て。」


 まるで俺の考えなど見透かしたかのようにそう言う男。言われるがまま時間を見る。すると男の言う通り、確かにまだ3時間も経過していなかった。


(バカな…こいつ…一体…?)


「そろそろエンディングも終わりかな。見て。コメントが沢山来てるよ。」


『神プレイに惚れました!』


『こいつ本当はこんなに上手かったのか。』


『今まで出し惜しみしてたな?』


『チャンネル登録しました!次回も楽しみにしています!』


「チャンネル登録者数も増えてるよ。ほら。」


「なっ!!??100人!!??」


 つい昨日まで10人しかいなかった登録者が…10倍に増えただと!!??


「どう?やるもんだろ?僕。」


 指先で器用にコントローラーをクルクルしながら、思わず殴りたくなるような顔をする男。しかし悔しいが実力は本物のようだ。なぜなら、コメントをオフにした状態で配信を始めて、数時間でフォロワーを90人も増やすなどと、普通はあり得ないからだ。


「お前…一体…!?」


「僕はムーゲ。キミは?」


「神谷…健二郎。」


「日本人は名字が先で、名前が後だったね。では、健二郎。単刀直入に言うが、今晩だけでも、僕を泊めてくれないだろうか。」


「はぁ!?何で俺がそんなこと…」


「勿論タダとは言わない。この後も配信をして、朝までにフォロワーを、そうだな、200人にしてみせよう。どう?悪い話じゃないだろう?」


「そんなこと…出来るわけ…」


「出来るさ。数時間で90人増やしたんだよ?一度クリアしたことで高難易度モードも解禁されたみたいだし、それのタイムアタックの記録を更新したら…?


フォロワー数は200人どころじゃなくなるかもね?」


 この時。疲れ切った俺の頭は、次から次へと起こる急展開にオーバーヒートしかけていた。悪魔の囁きに抗うことが出来なくなっていた。


「……本当に、出来るんだろうな?」


「ああ。僕なら間違いなく記録を“更新”出来る。それだけは間違いない。」


「…一晩だけだぞ。朝になったら出てってもらうからな。」


「そうこなくちゃ。キミ、疲れてるだろ、ご飯食べたらシャワー浴びて寝るといいよ。」


 一刻も早く休みたかった俺は、ムーゲのプレイを横目で見ながら飯を手早く済ませると、シャワーを浴び、床についたのだった―――。


 そして今に至るというわけだ。何故炎上したのか。ムーゲを締め上げると、原因がわかった。


「なんかさー。中盤にさしかかった辺りで、赤い?コメント送ってきた人がいたんだよー。」


「……は?」


「長く表示されてたからさー。多分、有料のコメントかなんかなんだろうねー。僕も一旦マイクオンにしてお礼を言うべきか悩んだんだけど、まさかキミの代わりに言うわけにはいかないじゃん?だから適当に返信して誤魔化したわけ。」


「お前……それって……」


「その後からだよ。愚み…視聴者たちからお説教コメントが沢山流れてきてさー。余りにも邪魔だったから、つい打っちゃったんだよね…。


“うるさいな”って。」


「……ムーゲ。」


「うん?」


「出てけーーーっっっ!!!」


 俺はドアからムーゲを放り出した。こうして、俺のVtuber人生は終わりを告げた…


かに思われた。


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