一晩だけ泊める約束だった宇宙人と、何故か一緒にVtuberを始めることになった件について。

土岐 誠一郎

第1話 -Close Encounters of the Third Kind-

 皆は後先考えずに行動をして後悔をしたことはあるか。

俺———神谷健二郎は、今、まさに後悔をしている。


「そう怒るなよ健二郎。少しの間だけだけど、チャンネル登録者数を増やしてあげたじゃないか。」


 目の前で諸悪の根源がいけしゃあしゃあと言う。


「最終的に元の数より減ったら意味ねーだろうが!!」


 何故こんな奴を泊めてしまったんだろう。


「畜生…何だって俺がこんな目に…」


 がっくりと項垂れる俺。モニターの前では、悪魔の化身がケラケラと笑っていた。


 俺、神谷健二郎は大学に通いながらVtuberをしている。———最も、チャンネル登録者数はギリギリ2桁届くくらいの底辺中の底辺だが。


 そんな俺の前に悪魔が現れた。そして俺の生活をめちゃくちゃにしたのだ。時間は昨日まで遡る―――。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「あー、つっかれた~。」


 ほぼ毎日夜中までバイト。しかも今日は金曜日だからこの後配信もある。

今日やるのは某超有名ホラーゲームだ。正直ホラーは苦手で、映画も真面に見られないレベルだ。


 じゃあ何故やるかって?それは“未知への挑戦”だ。


 今までやったことがなかったり、広告などを見ても興味の持てなかったゲームでも、Youtubeなどで見るとやってみたくなるだろう?難しそうで敬遠していても、Youtuberなどのプレイを見ると自分にも出来るかもしれない。って思うじゃないか。


 正直、超人気タイトルで釣って、あわよくばチャンネル登録者数が増えたら…という願望が無いと言えばウソになる。だが、俺はこれまで、何事にもチャレンジ!をモットーに生きてきた。今通っている国立のN大学だって、担任の教師に無理だと散々馬鹿にされたが、チャレンジスピリッツをバネに合格したのだ。今回から配信するゲームも、必ずクリアしてみせる。


「あれ?電気点いてる?消し忘れたか?」


 アパートの鍵を開け中に入ると、廊下とリビングの電気が点いていた。しかもリビングからは何かの音がする。


(おかしいな。テレビまで消し忘れたか?…でもあれ?テレビなんかつけたっけ?)


 疑問に思いながらリビングの扉を開けると…


「え?」


「ん?」


 そこには見知らぬ男がいた。


「……は?何この状況…えっ…」


 男は部屋の中心に座り、ポテトチップスを食べながらゲームをしていた。しかもあれ、このゲーム……


「えっと…キミは?」


「……あれ、もしかして俺…部屋間違えた…?」


「あわてんぼうだなぁ。キミは。」


「すみませんでした。」


「いや、気にする必要はないよ。」


「失礼します…………


って、そんなわけねーだろ!!!


ドロボーーー!!!」


 俺は男目掛けて十六文キックを繰り出した。


「ぶふぉっ!!!」


 男は吹き飛び、床に転がった。


「今すぐ警察を呼んでやるからな!!!」


 スマホを取り出し、110番をしようとする。すると…


「待ってくれ。僕は…ボリ…泥棒じゃ…ボリ…ない…。」


「てめえ!何ポテチ食ってんだ!そういうのを泥棒だって言うんだよ!」


「悪かったよ。反省してるよ。」


「嘘つくんじゃねーよ。」


「本当にごめんよ。僕、行く当てが無くて…外、寒いだろ?何とか建物の中に入りたくて…それで入った場所がたまたまこのボロアパー…家だったんだ。」


「お前今何言おうとしたか、もう一回言ってみろよ。」


「そしたら面白そうなゲームがあったからついやりたくなっちゃって…。本当にごめんなさい。もうしません…。反省してます…。」


「…ごめんなさいで済んだら、警察なんていらねーんだよ。」


 急に潮らしくしやがって…でもだからってやっていいことと悪いことがあんだろ。


あれ…?


「そう言えば、お前、どうやって中に入ったんだ?」


 俺は毎朝、窓も扉も施錠したか、2回は確認して家を出る。かけ忘れたなどあり得ない。


「え?ピッキング。ボリ…」


「やっぱ泥棒じゃねーか!!!あと、食うなっつってんだろ!!!」


 これが俺と、未知の生命体、宇宙人ムーゲの奇妙な出会いの始まりだった―――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る