魔女の孫
墨
第1話
死は祝福である。
死は天からの恵みである。
死を忌み嫌ってはならない。
死を遠ざけてはならない。
死無くして人は無く。
死無いものは人にはあらず。
死から見放され、生き汚く生を続けるもの
それすなわち__魔女である。
脳天に響くような甲高い声の罵声がよく響く。
響いているはずなのに、あまりにも汚い内容に理解をすることを頭が拒否している。
悪意と敵意が込められた言葉をずっと浴びせられている小さい2つの体はぴくりとも
動かず、ただただ、じっと耐えていた。
「ああ!本当に気持ちが悪い!」
華美な女が大袈裟に手を振り、大袈裟に足を鳴らす。
子どもたちは動かない。
私が今朝方整えた2人の金髪は、華美な女の陰のせいで錆びているように見えた。
手をとってあげたい、肩を抱いて、こんな場所から遠ざけてあげたい。
悔しくて噛み締めた奥歯がギイっと鳴った。
__でも、今じゃない。機会は選ばなければいけない。
最善を選び続けなければ救えるものが減っていく。
「お前たちが、あの女に似ているせいで旦那様はお前達を見る度に私とあいつを
比べてくる!やっといなくなったのに、死に迎えられてもなお生き続けるとは
なんて化け物!魔女どももきっと、アレに似たお前達ならば喜んで迎えることだろうよ!」
「ああ、そうだな。___喜んで!」
女が一層声を荒げた時、その場に似つかわしくないほど喜色に満ちた声が聞こえた。
驚いて目を凝らしたその瞬間
___女の一番近くの窓が大きな音を立てて割れた。
ガラスが日光を反射し、昼間に似合わない星屑のように輝いている。
そしてそれがあの子達に降りかかると気づいた時にはもう駆け出していた。
視界の右横で、同期のエマが大きく目を見開いているのが見えた。
左からも同期のヤンの「おい・・っ」という焦った声が聞こえた気がする。
私の親友の子ども達__エステルとアドリアンはいきなり割れた窓を茫然と眺めていた。
「こっち!」
ぐいっと2人の細い腕を引っ張り、覆い被さる。
これから降り注ぐガラスの雨を想像して、体の筋肉が硬直するのがわかった。
良くないところに刺さりませんように・・・!
祈りながらぎゅうっとエステル達を抱きしめる。
まだ、痛みは来ない。
「お嬢さん。ガラスの雨に勇敢にも立ち向かったお嬢さん」
怖い、絶対こんなの痛いに決まってる。
でもこの子達を怪我させるわけにはいかない。
あの子の忘れ形見達は絶対に幸せに生きていかせると、決めている。
「その勇気溢れる背中を伸ばして、顔を上げな。
ガラスの雨に立ち向かうより勇気はいらないはずだけど?」
「シルヴィー、シルヴィー!」
エステルが腕の中で動き出したので、さらに力を込める。
アドリアンが「うっ・・・」と苦しそうな声を出したが、
エステルはまだ落ち着かないので声をあげる。
「エステル動かないで!ガラスが!」
「シルヴィー、上を見て・・・!」
__窓は割れてない!
「え・・?」
その言葉に思わず顔を上げれば、降り注ぐはずだったガラスは一片も無く、
窓は先ほどと同じように、まるで割れたことなんて一度もなかったかのように
存在していた。
そしてそこにはガラスの代わりとでも言うように、黒髪の青年が
場に似つかわしくないほどに、楽しげに微笑んで芋虫のように縮こまっている私たちを見下ろしている。
「やあ、ミスシルヴィーと太陽のいない哀れな子ども達。
俺は北西の魔女シャルル____魔女は好き?」
魔女の孫 墨 @esmi_0507
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