7月5日、地球最後の告白を part2

伏見京太郎

7月5日、地球最後の告白を part2

「今日さ、終わるらしいよ」

「何が?」


「地球」

「地球が?」


「なんか世界滅亡するんだって」

「はぁ...アホらし」



「ね、でもさ、こんなに地震起きてたら、ひょっとして本当に滅んだらどうする?」

「ひょっとしなくてもノストラダムスの大予言とかあったでしょ、ひょっとしなくても滅ばねぇよ」


正直、よくわからなかった。

世界が終わるって言われても、実感が湧かない。

明日も普通に朝が来て、電車に乗って、授業受けて、部活行って。

そういうのが当たり前すぎて。


「ならさ、仮に滅ぶとしたら?仮に、この世界が滅ぶとしたら、最後の1日、アンタは何をすんの?」


「んー」

「...」


「...」

「...」


「わっかんね、なにしてんだろ、いつも通り?」

「はー、そっか、アンタはそうだね、いつも通り過ごしてそう」


呆れられたように笑われた。

でも、悪くない笑い方だった。

風が吹いて、青葉がいつもより騒がしく揺れた。


「はは...言うねぇ」


「最後なんだよ、想像してよ。この世界、全部終わるんだよ、学校もライブハウスも部室も全部なくなって、友達も家族もみんなもいなくなって、終わるんだよ!?全部、全部、なくなっちゃうんだよ!?」


最後の日。

もし本当に最後なら。


世界がどうとか、正直どうでもよかった。

なくなるって言われても、ピンとこない。

でも、ふと考えてしまった。


小さい頃から、ずっと一緒にいたこと。

くだらない話ばっかりして、アイス食べて、映画観て、ライブ行って。


部活も、お互い興味ないフリして、結局ちゃんと見に行って。


気づいたら、いつも隣にいた。


「それなら...」

「......」


それなら...と言いかけたけど、続く言葉が出てこない。出てくるけど、なんだかこれから先の言葉を話すと、自分の気持ちが全部曝け出してしまうみたいで。


「うーん、やっぱいい!」

「え、なんで!なんなの!」


うーん、やっぱり口から出た言葉に食いついてきてしまった。無理やり話を終わらせてしまおう。


「なんか、こう、やっぱりやめ!この話やめ!」

「なに!なんなの!言ってよ!」


どうやら、あいつの言葉の包囲網にかかってしまったみたいだ。その先の言葉を紡ぎ出すのはどうにも恥ずかしくて照れ臭くて。でも、逃げられない。どう足掻いても逃げられない。


あいつの顔がそれほど真剣で、目が少し潤んでいるのを見てしまったからだ。


「その、さ、やっぱり、小さな頃から幼馴染としてずっと俺たち一緒にいただろ、しょっしゅうくだらない話して、アイス食べて、映画見て、ライブ行って、部活もお互いに応援して。」


少し間をおいて、あいつが頷く。


「うん」


「だから」

「...だから?」


「最後の日も、お前とこうして話していたいって思っちゃった」


言ってから、少し後悔した。

やっぱりこういうのって重いかな、とか。

最後の日って言ってるのに、俺の言葉、地味すぎじゃね、とか。


「え、そ、その...それはなんというか...」


いや、その、変な意味じゃなくて、なんというか、やっぱり最後はお前と一緒だといいな、みたいな、そういう素朴な気持ちで言ってみたけど、これって告白みたいな、その、自分でも何言ってるかわからなくなってきた。ええい、もうこの際、話してしまえ、恥ずかしくて顔は見れないけど、言ってしまえ、俺。


「うん、俺、お前と過ごしてる時間が好きだ。よくわかんないけどさ」


また、少しの間を置いて、あいつが耳と頬を赤らめながら、顔を下に向けて

「なかなかの事言うじゃんよぉ...」

と消え入りそうな声を絞り出した。


これは上手くいったのか?それともイマイチだったのか。察しが悪いとずっと言われてきた俺は疑問符を頭に浮かべた。


7月5日。

地球が終わるなんてことはなかった。


でも、この日のことは、妙に頭に残っている。

何を言ったか、どういう顔をしてたか。

思い出すたびに、少しだけ胸がむず痒くなる。


あの日が、本当に世界最後の日になる可能性があったかどうかなんてのは知らない。


ただ、俺の人生の中で一番、あいつに変なことを言った日だったのは、たぶん間違いない。


「7月5日、地球最後の告白を part2」


<了>

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7月5日、地球最後の告白を part2 伏見京太郎 @kyotaro_fushimi

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