ユキノは学校から帰るなり、ふらふらと部屋の中を歩きベッドの許まで来るとゆっくりと倒れた。

「終わって……　終わってしまった……　グループ発表……　もうアキトくんと話す理由がなくなっちゃったよぉ～」

　ユキノは悲しい声を出して落ち込んでいた。

「あぁ～、夢のような時間が……　もうお話しできないのかなぁ」

　クラスの人気者であるアキトに、どちらかというと地味系グループに属する自分が積極的に話をしに行くには抵抗がある。明らかにアキトを狙っているだろうライバル達に変に目を付けられるだろうし。そう思うユキノは絶望して涙でも流しそうであった。

　スマホを取り出したユキノはメッセージ画面を開く。無意識に送ってしまったメッセージをきっかけに、あれから数回のやり取りはしていた。グループ発表の内容についての事務的なものばかりだが。

　それでもユキノにとっては宝物である。やり取りしていた時のドキドキ感を思い出し、幸せに浸っていると階下から母の声がする。

「ユキノ～！　ご飯よ～！」

「はーい！」

　スマホを枕元に置いて立ち上がったユキノは部屋を飛び出してバタバタと階段を下りて行った。

　ぬっと、サンタが立ち上がる。今回はいきなりスマホを手に取るのではなく、まずはタッチペンをと勉強机に向かう。

　よじ登ってタッチペンを取ってくるとベッドの上でスマホを手にし、流れるような慣れた手つきでパスワードを解除した。

『発表お疲れさま。　こんど遊びに行かない？』

　アキトとのメッセージ画面を表示させると素早く文字を打ち、まったく躊躇せずにサンタは送信ボタンを押した。

「ふぅ、寝るかぁ～」

　風呂上がりでホカホカしているパジャマ姿のユキノが、ぐぐっと腕を伸ばしたりしてストレッチしながら部屋に戻って来た。

　ベッドにゴロンと転がると、ふと、枕元のスマホの通知ランプが光っているのに気が付いた。なんだろうと、スマホを手に取って確認したユキノは「へっ……！」と絶句して青ざめた。

　画面を開けば、自分のほうから『発表お疲れさま。　こんど遊びに行かない？』と送っている。

「な、なんで？？！　なんでわたしがアキトくんを遊びに誘ってるのぉっ？？！」

　絶叫しながらユキノはベッドから転がり落ちた。

　そして、自分がメッセージを送ったとされる時間から十分後くらいにアキトからは『いいよ、打ち上げ？　男子には俺から連絡しとこうか？』と返信があり、ノータイムで『ううん、二人だけで』と返していた。

「なに送っとんじゃ、わたしっ！！　い、いや、わたしなの？？！」

　パニックになりながらもズラっと続くメッセージをユキノは追っていく。階下から「なに大声で騒いでるのユキノ！　早く寝なさいっ！」と言う母の声など彼女の耳にはまったく入らない。

「……う、嘘でしょ？！　二十ラリーくらいしとる…………　まったく記憶がないんだけど……　っていうか、この時間は確実にテレビ見てたはず……　だよね？」

　ラリーしている時間帯はユキノがハマっている恋愛ドラマの時間である。ついさっきのことで、内容もハッキリと覚えているユキノは何故こんなことになっているのか理解できない。

　しかしスマホの画面が現実を示している。そこにはアキトから『じゃあ、土曜日の十時くらいに駅前のリオンモールでいいかな？』と待ち合わせの返事を待つメッセージで終わっていた。

　しかたなくユキノは震える指で『はい。　よろしくお願いします』と打ち、二、三度大きく深呼吸したのちに送信ボタンを押した。

　気力を使い果たしたユキノはパタリと崩れるようにベッドに転がり、気絶するように眠りについたのだった。

　それからの数日間、ユキノは落ち着かない日々を過ごしていた。教室の中、チラチラとアキトに視線を向けるが当のアキトは普段通り。

　何とも思われてないのかなと、ちょっと落ち込んでみたり。いやいや、断ってこないんだから脈はあるんだよね、多少は。と気分を持ちなおしたりと、ユキノは気持ち的に忙しい日々を送っていた。

　そして金曜日の夜。いよいよ明日かといつもより早くユキノは布団に潜り込んだ。緊張して眠れないだろうと見越してである。眠れずに寝不足の顔でアキトに会うわけにはいかないのである。

「明日、なに着て行こう……」

　目を瞑りながらポツリと呟き悩んでいると、意外とすんなり彼女は眠りに落ちていった。

　ユキノの寝息が聞こえだしたころ、ムクリとサンタが起き上がる。

　サンタはベッドから飛び降りるとクローゼットへと向かう。サンタはクローゼットの隙間に手を入れることで無理矢理開けた。そして近くから台になるような箱などを持って来るとよじ登り、常々、彼がユキノに似合っているなと思っていた服の組み合わせを二組選んで降ろし、フローリングの床に並べて見比べる。

　フェルト製の髭に手を当てて、う～ん、と唸るかのように悩むサンタ。しばらくのち、やはりこちらか、と片方の組み合わせに決める。落選した洋服を脇にどけたサンタは次にタンスへと向かった。

　タンスの一番下の引き出しを開けると、彼は迷わず一組のブラジャーとパンツを引っ張り出す。

　フローリングの合格した洋服の許へと戻ったサンタは、そっと洋服のそばにパンツとブラを添えた。