未知との遭遇

たたみや

第1話

 新ネタを卸し、お客様の反応を確認すること。

 まだ見ぬ反応を確かめるのだから、ある意味未知との遭遇と言えなくもない。

 そんなことをふと思いながら、シタミデミタシの二人がステージに立つ。



「皆さんこんにちは、CANDY TUNEです!」

「いっこもそんな要素ねーじゃねーか! シタミデミタシでーす、よろしくお願いしまーす」

「ねえねえさとる」

「どうしたんだよ?」

「さとるは心躍る瞬間ってある?」

「そうだな、未知との遭遇を果たした瞬間かな」

「やすえ姉さん!」

「そういうことじゃねえよ! 人智ではおよそ説明出来ないようなことに出くわした瞬間だな」

「例えばどんな?」

「そうだな、幻の生物をカメラが捉えたとかさ」

「ああ、ママタレね」

「いっぱいいるよママタレは! 結婚したタレントの第二のしのぎだぞ! そういうんじゃなくてさ」

「じゃあさ、ぼくがその幻の生物を追いかければいいんだね。ぼくが取材先のリポーターやってみるから、さとるはキャディーさんね」

「何でキャディーさんなんだよ! 普通に番組の視聴者でいいよ」

「えー我々は今、ふなっしーを追いかけています」

「いるよそれは! 船橋市で元気にしてるぞ!」

「我々は今、キッシーを追いかけています」

「いるよそれも! 永田町にいるって」

「じゃあメッシーとアッシーは」

「いるよそれも! 最近めっきり聞かなくなったけどさ。くがっち、気づいたことがあるんだけど」

「どうしたのさ?」

「何で日本国内で探してるんだよ! こういうのってさ、海外に行って取材するもんだろ!」

「予算が削られちゃって」

「いいんだよそんなとこにリアルを出さなくてさ。海外で取材をしてくれよ」

「えー、我々は今ネッシーを追いかけています」

「おお、ついに来たか! これは楽しみだな」

「現在ネス湖までやって来ました。現地の人に聞いてみましょう。ハロー」

「おお、いい感じじゃん」

「何と、生まれてこのかたネッシーを追い続けている方とコンタクトが取れました!」

「すげええええ、仕込みくせええええっ!」

「あなたはネッシーを見たことがありますか? はいかイエスで答えて下さい」

「何で圧をかけるんだよ! もっと自然に聞いてくれ」

「昔は見たけど、ここ近年はずっと見ていない、とのことですね」

「見たって時点ですごいことなんだけど……」

「そうですね。やっぱEUに加盟しているようじゃダメだったってことですね」

「何だあ、新手のブリティッシュジョークかあ!」

「ユーロの札束をちらつかせても気配がないそうです」

「ネッシーを何だと思ってんだよそいつは。ポンドでもネッシーは振り向かねえだろ」

「それにしても、随分お金持ちですね。そのお金って何に使われてるんですか?」

「聞くなよそんな話はさあ」

「ああ、可愛い女の子に食事をおごったり、家まで送ってあげるために新車を購入されたんですね」

「おいメッシーとアッシーじゃねえかそいつ! 大丈夫なのか?」

「あと、有名人だと誰に似てるって言われますか?」

「質問がどんどんネッシーから離れていってんじゃねえか」

「日本で増税メガネって言われていた人、だそうです」

「今度はキッシー出て来たじゃねえか!」

「あっ、そうなんですね!」

「今度はどうした?」

「日本が好きなんですね。それでよく観光にいらっしゃるんですねえ」

「いよいよ雑談がはじまったじゃねえか!」

「日本のゆるキャラが好きで、特に黄色いボディの機敏に動く梨の妖精が好きと」

「完全にふなっしーじゃねえか! どうなってんだよ!」

「後は日本のアイドル、タレントもお好きとのことで」

「もうやめてやれよ。放送されてんだからさー」

「元モーニング娘。の辻ちゃんが一押しとのことです!」

「とうとうママタレの話をしだした! こいつもこいつだろ、ノリノリで全てをさらけ出してるぞ!」

「どうも、ありがとうございます」

「結局ネッシーの話はどうしたんだよ!」

「落ち着いて下さい! 急に怒らないで下さい! 暴言は止めて下さい! え、こわかったーって?」

「何でやすえ姉さんのネタやってんだよこいつは!」

「リポーターって大変だねさとる」

「くがっち全く出来てなかったじゃねえか!」

「どう、さとる。未知との遭遇が出来たでしょ?」

「これじゃあただの放送事故なんだよ! もういいぜ、どうもありがとうございました」



 シタミデミタシの二人が漫才を終え、会場は歓声に包まれた。

 客席に笑顔を届けることが出来たようだ。

 悟とくがっちは一安心したような表情を浮かべた。

「さとる、新ネタが上手くいくと気持ちいいね」

「だなあ。ネタ作った甲斐があるってもんだよなあ」

「ネタはたくさんあるに越したことはないし……」

「ああ、それは間違いないぜ」

 こうしてシタミデミタシの二人は、更に高みを目指すべく精進するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未知との遭遇 たたみや @tatamiya77

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画