サンタロボはクリスマスが歌えない

野口マッハ剛(ごう)

ボクは子どもの頃からサンタロボを見て育った

 今年もクリスマスがやってくる。全国のサンタロボたちは子どもたちにお菓子を配る。


 ボクは子どもの頃からサンタロボを見て育った。今は二十歳の青年。子どもたちは目をキラキラさせてお菓子をもらう。


 サンタロボを見て、毎年クリスマスを感じる。


 ボクはサンタロボからお菓子をもらって胸がズキッとなる。子どもの頃の思い出。大好きなあの子の笑顔。もう会えない楽しかった日々。


 街角で弾き語りをする。行き交う人々は人間や宇宙人、たまにサンタロボが通る。


 宇宙人は基本的に友好的である。サンタロボを指差しては喜んでいる。たまに悪い宇宙人も居るが、人間と宇宙人は仲良しだ。


 さて、今日のチップは貯まった。


 立ち去ろうとして、サンタロボがやってくる。


「良い歌、もう一回」


 ボクは反応に困る。けれども、歌うことにした。


『ボクがクリスマスを歌うのは大好きなあの子のためさ。二度と会えない笑顔。サンタロボはクリスマスが歌えない。La La La……』


 サンタロボは拍手する。ボクは急に切なくなる。あの子の笑顔を思い出して。


「あ、こんなところに居た。久しぶり、ガードアンドロイドさん!」


 その声は、紛れもなくあの子の。声のする方を向くと成人したその子と小さな子どもが一人。


「急に引っ越して、会えなくなってごめんなさいね? ガードさんは今日も街の安全を見ているのね? ほら、あなたもガードさんに挨拶しなさい」


「こんにちわ、ガードさんとサンタロボさん」


 ボクは胸に何かが込み上げてくる。プログラムされていない感情のようだ。懐かしさ? 悲しさ? 嬉しさ?


 どれも違うような気がする。


『君にまた会えた。嫌われたと思っていた。プログラムを超えるこの感情。サンタロボはクリスマスが歌えない。La La La……』


 君は拍手する。小さな子どもが笑顔。ボクも笑顔。


 その時、一人の宇宙人が暴れる。


 ボクは二人を守ろうとして、その悪い宇宙人に飛びかかる。


 久しぶりの再会にプログラムされていない感情が込み上げた。ボクは幸せ者だ。


 君とは一緒になれない。人間とアンドロイドだから。けれども、ボクは幸せ者だ。


 サンタロボはクリスマスが歌えない。でも、お菓子を配る。今日のような素敵な日のために。

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