1.追放と出会い(コピア視点)

「コピア、すまない。このパーティを抜けてくれないか」


 私がパーティのリーダーであるアダトに言われたのは、コロレという街に到着してすぐの事だった。


「えっと、理由は……」

「それは、その……。わかるだろう?」


 その言葉に、じんわりと涙が溢れてくる。

 そんな事を言い出したアダトに対する怒りだけではない。わかるだろうと言われて察してしまう自分の現状に対しての、悔しさと失望もあった。


 アダトと私は同じ孤児院出身で、少し年上のアダトは私にとって兄のような存在だった。どうやら私とアダトは同じ時期に孤児院に入ることになったらしく、その頃から私を妹のように可愛がってくれたらしい。

 そして5歳になった。5歳になれば、どんな子供でもスキルを鑑定してもらう儀式がある。人は誰でも一つだけスキルを持っていて、それを元に人生が決まるのだ。


 アダトは既にスキル鑑定を受けていて、相手に攻撃が必ず当たる“命中”のスキルを持っている事が判明していた。同時に炎魔法の適正もあり、戦闘職になって活躍する未来を誰からも期待された。

 そんなアダトを見ていた私も、アダトと一緒に冒険に行けたらいいと夢見ていた。


 けれども、私のスキルは“コピー”だった。“コピー”は、やや質は落ちるが、回復薬などの冒険に必要な初歩的な道具を複製することができるスキルだ。


『コピアの将来は道具屋さんかな?』


 そう孤児院の先生は優しく言ってくれたけれども、今なら知っている。劣化版しか作れないコピースキルはハズレスキルで、材料は必要だが良い性能の物を作れる“製作”スキルの方が優れている事も。そしてその製作スキルでさえ、“機械”というものが誕生し自動で作れるようになり、ハズレスキルになっていることも。

 そんな事を知らない幼い私でも、戦闘向きのスキルではないことに落ち込んだ。しかも、魔力適正すらなかった私は、本来冒険に出る事すら一般的ではなかった。


 けれどもアダトは言った。


『冒険者になるにしてもお金が無い状態で始めるわけだし、少し性能が落ちたぐらいでも無限に薬や道具が手に入るなんて、最高のスキルじゃないか! 戦闘向きのスキルじゃなくてもいいよ! 一緒に行こう!』


 その約束通り、アダトは私を冒険に連れ出してくれた。

 最初は勿論役に立っていたのだと思う。1つ回復薬を買えば、劣化版とはいえ無限に使うことができるのだから。

 けれどもアダトが成長するにつれ、劣化版の回復薬や道具では不十分になっていった。そしてアダトが冒険者として十分な実績を積むころには、性能の良い薬や道具を気にせず買って使えるほどお金には困らなくなった。


 それだけじゃない。一人仲間も増えた。水魔法使いであるアクア。アクアの使う水魔法は補助魔法も豊富で、次第に薬や道具すら不要になっていった。


『ねえ、アダト。その、コピアの事なんだけど……』


 少し前の夜、私がもう眠っていると思ったのか、アクアがアダトに声をかけた。


『このあたり、結構強いモンスターが多いエリアでしょう? 流石にあたしでも、コピアのこと気にしながら戦うのはきついっていうか……』

『でもまあ、ほら、道具の節約になってるというか……』

『雑魚戦ぐらいでしょ? 私たちの強さじゃほとんど使わないし、食費の方が多いぐらいよ。それに、あの子ほとんどしゃべらないじゃない。本当に、私達と一緒にいて楽しいの?』


 その会話を聞きながら、聞いているとバレないように涙を必死に堪えていたのは覚えている。

 昔から、しゃべるのは苦手だった。だからアクアが話しかけてくれても、上手く会話を返せなかった。唯一話せていたアダトとも、アクアと話している間は話すことができず、ただ少し離れている所で話を聞くしかなかった。


『……そうだな。昔の約束に縛られてすぎていたのかもしれないな。このままじゃ、コピアを危険な目に合わせてしまうかもしれないし。街にいれば安全だから、次の街でギルドにでも預けるか』

『それがいいわ。……それに、頑張って妹のように思おうとしたけれど、やっぱりどうしても、あの子に嫉妬してしまうわ。冒険の支障になるから、あの子に私達の関係を隠しているのは理解しているけど、それでも、ね』

『あはは。流石に、愛する恋人を不安にさせるわけにもいかないか』


 その言葉に、私はアダトの冒険だけでなく、人生の邪魔になっているのだと理解した。知らなかった。二人がいつの間にか恋人同士になっていたなんて。確かに距離が近いと思ったことはあったけれども、そういうことだったのだろう。


 冒険の役に立てていない事はずっとわかっていた。自分のスキルですらそこまで役に立てていないことも。けれどもだからこそ、料理や持ち物の整理、仲間の武具の手入れなど、できることを必死にやってきたつもりだった。けれども、アダトの邪魔になっているのであれば、それは別だ。

 アダトのことは好きだった。それは兄としてではなく、異性としての意味も少しはあったのかもしれない。それ程までに、心が痛かった。


 だから、コロレに着いたらパーティを出るように言われるのはわかっていたことだった。けれども、せめてアダトの口から理由を聞きたかった。もうわかっているだろうと、当然のように言われたのも悲しかった。


 けれども、これ以上アダトを困らせてはいけない。寧ろこんな無能の私の夢を叶えてくれたことに、感謝しなければいけないのだ。


「わか、った。アダト。今まで、ありがと」

「こちらこそ、わかってくれてありがとう。ギルドまでは送るよ。そこなら、何か仕事でも……」

「その必要はねえよ」


 と、別の声が二人の会話を遮った。


「彼女のスキル、コピーだろ? 俺、店をやっててさ。できれば俺達の仲間になって欲しいんだけど」


 そこには、私と同じぐらいのオレンジ色の髪の少年が笑顔で立っていた。


 これが、私とアレイの出会いだった。

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