1TIMEデリバリー
@usami1026
プロローグ 2人は運び屋
──カチッ。
スレヴァーがボタンを押し込むと、シャカシャカと荒れた音が耳を満たした。聞き慣れた音楽だが、聞き飽きることはない。
時代遅れの旧式プレイヤー。音質は悪いが、長年使えば愛着も湧く。側面には古びた刻印──Slever。
「お兄ちゃん、次の依頼どうする?」
イントロも終わらぬ間にイヤホンを外し、その声にスレヴァーは視線だけ動かす。
視線の先では少女が梅おにぎりをほおばりながらタブレットを指で叩いていた。
「トリィネ。行儀が悪い」
注意されたトリィネは、おにぎりを丸ごと口へ押し込む。
「……それも行儀悪いぞ」とスレヴァーは無表情に付け加えた。
彼らがいるのはクーラーの効いた車の中。あらゆる荷物で荒れた車内で、外を汗だくで歩く人々を横目に、優雅な昼食タイム中だった。
それもトリィネの言葉で終わりを告げる。仕事モードに脳が切り替わった。
「どれどれ」
スレヴァーはタブレットを覗き込む。画面に映るのは彼らが運営する掲示板──「運び屋への依頼所」
ここに書き込まれた依頼をもとに運搬をする。それが彼らの仕事。とは言っても、まだそれほど知名度も信頼もない。その理由は彼らが普通の運び屋ではないことにあった。
「選べるほど依頼がねえじゃん」
「そんなことないよ。1、2、3……4つ?」
「……やっぱり難しいな~。時空を超えた運び屋ってのは中々信じてもらえないか」
時空を超えた運び屋。過去、時には未来へ人やモノを運ぶ。もちろん金はきっちり頂き、それで彼らは生活をしている。
「あっ!これ見てよ」
トリィネはスレヴァーに画面を見せつける。
そこに書かれていたのは──
「詐欺サイト乙……」
時空を超えた運搬なんてのは信頼度が低くて当然だった。現状、顧客数は芳しくない。スレヴァーは思わずため息を漏らす。
「ちょっとやめてよ。空気が重くなるじゃん」
トリィネはムスッとする。再び画面に顔を向けるとやはり彼女も悲しそうな顔をした。
「それにしても………時間移動自体は普通に行われてんだから詐欺ってのは言い過ぎじゃない?」
タイムマシンの発明により、トリィネが言うように時間移動は今や絵空事ではなく現実のものとなった。
しかし、実際は普通とはほど遠い。それこそ言い過ぎだ。
時間移動は危険な力。その技術は一企業が支配し、国家による厳しい規制が敷かれている。
スレヴァーのような一般人には本来、縁のない世界だ。そんなタイムマシンを使った違法な運搬。彼らの業務は疑われて当然だった。
スレヴァーは嘲るように笑みを浮かべた。
「企業努力の賜物だな。あいつらの厳しい規制のおかげで商売上がったり。おかげで詐欺師呼ばわりだ」
「トリィたちは詐欺なんかじゃ敵わない大犯罪者なんだけどね〜」
ニヤニヤする彼女の顔はスレヴァーによく似ていた。兄弟らしい会話もほどほどに、真剣に依頼を選び始める。
「で、どれにする?人運びに恋路……動物持ってこいなんてのもあるけど」
「……これだな」
「オッケー!じゃあ、さっそく行こう!」
「……運転するのは俺な」
スレヴァーはハンドルを握り、アクセルを軽く吹かす。轟くマフラー音に視線が集まった。
「んじゃ行くか!」
スレヴァーたちは規制も時間も飛び越えものを運ぶ。今日もこのタイムマシンに乗って――違法な旅が始まる。
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