鼻血
第1話
部室に入ると、部長が奈々を殴っているところだった。奈々は床に倒れ込んだが、部長はその姿を無視して部室から飛び出した。奈々をよく見ると鼻から鼻血が出ていた。
「大丈夫!? 女の子を殴るなんて酷い」
「大丈夫だよ。これ鼻血じゃないんだ。血糊なの」
「は?」
「怒った人が勢いで殴って、殴られた人が鼻血が出したらどんな反応するかなぁと思って私がわざと怒らせたんだ」
「イカれてる。……でも血糊って鼻に仕込めるものなの?」
「仕込めるよ。とっても小さい簡単に壊れるカプセルに血糊を入れるの。それを鼻に詰め込むんだ」
「本当に?」
「嘘だと思うなら舐めてみたら? いちご味だよ」
僕は座っている彼女の目の前に座り、彼女の鼻から出た血を舐めた。これはーー。
ふと変な気配を感じた。よく見ると、押し入れが少し開き、そこからビデオカメラのレンズが反射していた。
「撮ってるだろ? 部長もグルか?」
「だってやっぱりこのシーンがないと映画として完成しないんだもん。嫌なら上映会に来なきゃいいじゃん」
「俺がそういう性癖な奴って思われたらどうするんだよ?」
「脚本と監督は私だよ。嫌ならこの映像をメイキングとして流せばいいじゃん。……ところで、私の鼻血はどんな味だった?」
「よくわからなかった。あれは血糊なの? それとも本物の血なの? あとさっきはスルーされたからもう一度聞くね? 部長はグル?」
「さぁね。気になるならもう一度舐めてみれば?」
奈々はそう言うと悪戯っぽく笑った。僕はもう一度、奈々の鼻血を舐めた。しかし何の味もしない。鉄の味もいちごの味も。
「味がしない」
「だろうね。私、人間じゃないもん。完全に模倣しきれてないから血もそんなに赤くないしね」
言われてみれば、彼女の血は若干ピンクっぽかった。鼻血だと認識出来たのは、顔を殴られて赤っぽい液体が鼻から流れ出したからだ。でもそんな話信じられるわけない。
「信じてないでしょ?」
彼女はそう言うと立ち上がり、道具入れに入っていたカッターを持ってきた。そして袖を捲った。白い綺麗な腕があらわになった。
「触って」
普通の人の腕だ。テープも何も貼られてないし、何も細工されていない。そして彼女は、カッターナイフで手首を切った。傷口からはピンクがかった血が溢れ出した。血を舐めるがやはり味はしない。すると、徐々に傷口が塞がりめた。
「え。……やっぱり化け物だったんだな」
僕がそう言い切ると、それを見て奈々も驚いていた。そしてこう僕に告げた。
「それを言うなら君もだよ。私にはこんな治癒能力備わってない」
「は?」
「まぁ、傷口舐めるなんて馬鹿げた行為普通はしないから気づかなかったんだろうね。生まれて初めて同類に出会えたよ。仲良くしようね、化け物くん」
奈々はそう言うと、握手を求めるように僕に手を差し出した。
鼻血 @hanashiro_himeka
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