卒業旅行でクラスの私以外の女子全員が幼馴染と付き合っていたことが判明した話
ゆいゆい
第1話 前編
3月1日、とくに大きなイベントが発生することもなく、私
3年2組女子12人による卒業旅行が企画されたのが、2月中旬の話である。普通科のみの進学校で、男女比が6:4程度のわが校ではあるが、理系の女子比率が低く、クラス36人に女子は12人しかいなかった。そのうえ理系クラスは1クラスしかなく、2年間同じクラスメイトであったため、私たち12人の結束力は変に厚い。「ねえねえ、せっかくだし女子だけで卒業旅行に行こうよ」の声に、全員が首を縦に振るのも必然であった。
私達が3月26日に訪れたのが箱根。みんな、大学に着ていく用のファッションを身につけていたのか、普段以上に大人びいて見えた。電車で2時間かけて到着し、美術館やら芦ノ湖やらぶらぶらした。今日だけで200枚は写真撮った気がする。景色だったりランチだったり変顔だったり……スマホの中にまた最高の思い出が足されていった。
宿泊地のホテルは、スタッフが親切だし料理がマジウマだし温泉はサイコーだし、言うことなしだった。ちょっと見栄張って高いホテルを選んだわけだけど、これならまた来たいな、なんて思った。ただ、このホテルが私の心に大きな傷跡を残す場所になるなんて、当然この時はまだ思ってなかった。
「ねえ、みんな。JKが布団の中で話すものって、なーんだ?」
ぽつりと口にしたのは、クラスのお調子者のひかり。大部屋1部屋を予約し、12枚の布団が敷かれた和室でわいわい女子トークをしていたわけだが、その一言で時が止まった感じがした。
「ひかり。それってなぞなぞになってないよね?」
「バレたか〜。でもさ、せっかくだし恋バナしたいじゃん」
手で口を隠しながら、布団にくるまっていたひかりがはしゃぎだす。
「じゃあさ、まずはひかりから話しなよ。ひかりの恋バナとかマジで何も知らないんだけど」
2組の黒ギャルこと樹里がひかりに接近して問いかける。
「えー、いいよ。でも、ひかりの恋愛高校編は1件しかないんだよねー」
「へー、1件あったんだねー」
「知らなかったぁ」
ひかりのカミングアウトに全員が目を寄せて注目する。やはり、現役JKが盛り上がる話題はこれに限るのだと再認識した。それにしてもひかりに彼氏がいたなんて。てっきり私同様、3年間彼氏いなかった組だと思っていなかっただけにちょっとショックだった。
「私ねー、2年生のはじめに彼氏いたんだよー。……同じクラスの八木くん」
えっ………………
ひかりのカミングアウトに衝撃を受けた。聞き間違いをしただろうか。いや、確かにひかりは「八木くん」と口にしていた。
八木
私の心に衝撃が走り、まだそれが治まっていない時であった。さらなる衝撃が何段階にも渡って私を襲ったのは。
「えっ、ひかりも八木くんと付き合ってたの?」
「ごめん、実は私も……」
「マジか、わたしもなんだけど」
「わ、私も……」
ひかりのカミングアウトを皮切りに、次々に手を挙げる女子たち。ほぼ全員の手があがり、残るは私と、無口な読書少女志穂ちゃんだけになった。だが…………
「私も…………付き合ってた」
小声で志穂ちゃんがその事実を白状したことで、遙真と交際していなかったのが私だけだと確定してしまった。
そして、最後に全員の視線が私に集まった。
「で、あまねは?……って聞くまでもないか。あまねと八木くん仲良すぎだもんね」
「それな!『えっ、付き合うの私でいいの?』って思わなかった?」
「わかるぅぅぅ!!」
「それぇぇぇぇ!」
女子達が一時的に私そっちのけで盛り上がり始めた。どうも全員が全員、付き合うにあたり、私に対して申し訳なさを感じていたらしい。
「ううん。大丈夫。私も遙真と付き合ってたし」
「あー、やっぱりーー」
「そりゃそうだよねぇ」
「あまね以外に誰が八木くんと付き合うのって感じだしさぁ」
私はつい嘘の告白をしてしまった。なんか、悔しかったから。
ただ、私の告白は皆に安心感を与えたようだった。これでクラスの女子12人全員が八木遙真と交際歴があるということになり、遠慮なく八木遙真トークができることになったわけで。
ここから女子達はどんどん八木遙真の秘密をえぐりにいくことになる。あまねにとって、顔から火が出そうな一夜の始まりであった。
卒業旅行でクラスの私以外の女子全員が幼馴染と付き合っていたことが判明した話 ゆいゆい @yuiyui42211
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